ゴーヤのような表皮の『シン・ゴジラ』

 以上のように、ゴジラの生態に関する謎や、特性に類似する機能を持つ生物を紹介してきた。

 造形的に見て、ゴジラは何に似ているのか。『シン・ゴジラ』の雛形造形を担当した竹谷隆之氏へのインタビュー記事によると、「庵野さんが作る物には全て理由があるんです。警戒する必要がないから耳はいらないとか。ですからデザインもそんな法則に乗っ取っています。皮膚の形状で参考にしたのはゴーヤ」とある。

 そう言われてみると、皮膚のイボイボは確かにゴーヤに見えてくる。自然界にも、ゴーヤに瓜二つの生き物がいるのでぜひ紹介したい。

 それは、オーストラリアに生息するコブスジコガネの一種「Omorgus dohrni」という昆虫だ。コブスジコガネという昆虫は、鳥の羽毛や動物の毛を食べて生きている昆虫で、日本を含め世界中に生息している。私は、この虫以上にゴーヤに似た生き物を知らない。いつか遠いオーストラリアの地で、この虫の歩く姿を見るのがささやかな夢である。

川井信矢氏提供。「昆虫文献六本脚製コブスジコガネポスター」より転用。

映画監督と生物学者の関係性

 最後に、生物学とは直接関係がないが、キャストに注目してみても面白い点がある。一つは、俳優の横光克彦氏が環境大臣役で出演している点だ。横光氏は、野田内閣において本名の武藤克彦氏として2011年から2012年までの1年強、環境副大臣を務めた。

もう一つは、登場する「生物学者」が映画監督によって演じられている点だ。

古代生物学者: 犬童一心
生物学教授: 原一男
海洋生物学者: 緒方明

城北大学生物学者: 塚本晋也
城南大学元教授 牧吾郎: 岡本喜八(写真)

 ツイッターの@edge_wardogさんなど、既に幾つかの考察サイトで指摘されているように、ゴジラが登場して間もなく招集された3名の「御用学者」は、それぞれアニメ映画監督の富野由悠季監督、高畑勲監督、宮﨑駿監督のパロディではないかと言われている。この学者は、大河内総理から「時間を無駄にした」と一蹴されてしまうのだが、これは内閣側の質問が悪かったのではないかと少し不憫に思えた。

 なぜ、登場する生物学者が全員映画監督なのかは、正直分からない。だが、庵野秀明総監督の深い意図が隠されているような気がする。ぜひ読者のみなさんの意見を聞かせて欲しい。

 私は、庵野総監督の「主張」がここに隠されているのではないかと思う。御用学者はとしてパロディにしたアニメの3巨匠にはあれこれ言われたくない。尊敬する岡本喜八監督には「私は好きにした。君らも好きにしろ。」と言われているような気がする、と。この牧吾郎が遺した言葉にある「君ら」は、巨災対のメンバーであり、そして、庵野総監督自身なのではないだろうか。

 生物学という決して終わりの見えない学問に果敢に挑み続ける生物学者、映画という答えのない世界に向き合い続ける映画監督、庵野氏はその2つの生き様を重ね合わせたのではないだろうか。

〈参考文献〉
Hashimoto, T., Horikawa, D. D., Saito, Y., Kuwahara, H., Kozuka-Hata, H., Shin, T., ... & Enomoto, A. (2016). Extremotolerant tardigrade genome and improved radiotolerance of human cultured cells by tardigrade-unique protein. Nature Communications, 7.

International Human Genome Sequencing Consortium. (2004). Finishing the euchromatic sequence of the human genome. Nature, 431(7011), 931-945.

Takai, K., Nakamura, K., Toki, T., Tsunogai, U., Miyazaki, M., Miyazaki, J., ... & Horikoshi, K. (2008). Cell proliferation at 122 C and isotopically heavy CH4 production by a hyperthermophilic methanogen under high-pressure cultivation.Proceedings of the National Academy of Sciences, 105(31), 10949-10954.

イルミナ株式会社 2016
http://jp.illumina.com/content/dam/illumina-marketing/apac/japan/documents/pdf/primer_illumina_sequencing_introduction-j.pdf

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 その怒涛のような情報量に圧倒された方も多いのではないでしょうか。ゴジラが襲う場所。掛けられている絵画。迎え撃つ自衛隊の兵器。破壊されたビル。机に置かれた詩集。使われているパソコンの機種…。装置として作中に散りばめられた無数の情報の断片は、その背景や因果について十分な説明がないまま鑑賞者の解釈に委ねられ「開かれて」います。だからこそこの映画は、鑑賞者を「シン・ゴジラについて何かを語りたい」という気にさせるのでしょう。

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(日経ビジネスオンライン編集長 池田 信太朗)