日経ビジネスオンラインでは、各界のキーパーソンや人気連載陣に「シン・ゴジラ」を読み解いてもらうキャンペーン「「シン・ゴジラ」、私はこう読む」を展開しています。
※この記事には映画「シン・ゴジラ」の内容に関する記述が含まれています。

 私はとある大学で生物学を専攻している映画好きの大学院生だ。大学の学部生時代に、子供向けに科学の普及活動を行う会社を友人と起業したり、時間を見つけては国内外に虫採りに出かけたりする「科学オタク」であり、「生物屋(特に虫屋)」である。そのため、映画を観ていると否が応でも生物学的なことが気になってしまう。一種の職業病と言っていいだろう。

©2016 TOHO CO.,LTD.
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 既に多くの職業病を抱えた“患者”が、『シン・ゴジラ』について興味深い考察をしてきたように、私も生物学的な観点でなるべく具体的な生き物を挙げながら、この映画を考えてみたいと思う。この映画をきっかけに、生物学に、生き物に思いを馳せてくれたら幸甚である。

【疑問1】
「100度を超える体温の生物なんぞいるわけないだろ…」
→(一応)います

 東京湾アクアラインのトンネル事故に伴う総理レク最中に「海水が沸騰してるんだ。100度を超える体温の生物なんぞいるわけないだろ!」といった台詞が登場する。

 本当に100度を超える生物なんて居ないのだろうか。

 答えはノーだ。常温の環境下でも、100度を超える熱を発することが可能な生物は存在する。残念ながら陸だが。それは、日本にも生息するミイデラゴミムシ Pheropsophus jessoensis という昆虫である。別名ヘッピリムシとも呼ばれたりする。手塚治虫の「治虫」の由来ともなっている「オサムシ」に近縁な昆虫である。

 郊外の草むらなどにごく普通に生息するこの虫は、攻撃を受けると、お尻から化学反応によって作り出した100度を超える毒ガスを噴射する(毒と言っても死んだりはしない)。

 この虫を餌としているカエルなどの捕食者は、このガスに驚いて食べるタイミングを失ってしまうのである。

100度を超える毒ガスを出す「ミイデラゴミムシ」。写真:アフロ
100度を超える毒ガスを出す「ミイデラゴミムシ」。写真:アフロ

 また、100度を超えるような超高温環境に生息する生物も居る。海底の熱水域などに生息する超好熱菌などである。例えば、Methanopyrus kandleriというメタンを作る古細菌は、高圧条件下で122℃もの高温条件下で増殖することができる(Takai et al. 2008)。こういった極限環境に生息する微生物は、極限環境微生物と言われる。劇中では、ゴジラの体内に生息するということで登場していた。私達の生活と縁がないわけではなく、近年のDNA解析は、こういった好熱性細菌に由来する物質によって支えられている。

【疑問2】
「すごい…。まるで進化だ」
→いいえ、これは変態です。

 多摩川を遡上して蒲田から上陸した巨大不明生物は、品川へ移動し、突如巨大化して二足歩行を始める。その光景を見た、矢口蘭堂・内閣官房副長官(長谷川博己)が発した台詞だ。

 私はこの台詞を聞いた瞬間、がっくりと頭を抱えてしまった。強く言いたい。

 「お言葉ですが副長官、これは変態です。」と。

 動物が、生育過程において形態を変えることを「変態」と言う。実は小学校3年生の理科で習っている。例えば、オタマジャクシがカエルになったり、蝶の蛹が成虫になったりといった変化のことである。

 では、進化とはなんだろうか。