日経ビジネスオンラインでは、各界のキーパーソンや人気連載陣に「シン・ゴジラ」を読み解いてもらうキャンペーン「「シン・ゴジラ」、私はこう読む」を展開しています。
※この記事には映画「シン・ゴジラ」の内容に関する記述が含まれています。
私は普段、日経BP社のデジタル編成局で働いている。コンテンツを作る側ではなく、製作されたコンテンツをデジタルという手段でいかに世間に広めるか、読者に届けるか、ということを考えて実行する部署だ。そのため、いつもは原稿を書く立場にはない。だが、こういった仕事をしている私だからこそ映画「シン・ゴジラ」には感じるところがあった。それをここに書いてみようと思う。
鍵になる言葉は「広がる」だ。
そもそも「シン・ゴジラ」に興味を持ったきっかけは、公開直後に「シン・ゴジラ」を鑑賞した友人のツイートであった。「大満足」という趣旨のツイートを目にした私は、ゴジラ関連のキーワードでツイッターを検索していたところ、一つのツイートが目に留まった。
「シン・ゴジラ」が豪華キャストで製作されていることはもともと知っていたのだが、まさか野村萬斎がゴジラの“中の人”になるとは。興味を引かれた私はそこからインターネットで情報を収集し、今までのゴジラ映画は基本的に着ぐるみによる特撮であったことを知り、野村萬斎が“演じた”ゴジラを観てみたいと思った。
狂言とゴジラ、思いつきもしない発想である。そしてそのまま近くのシネコンの予約をインターネットで完了させ、野村萬斎のゴジラ役を鑑賞しに出かけることにした。ここまで友人のツイートを見てから10分程度の出来事である。
シン・ゴジラが持つ「広がるメカニズム」とは
「シン・ゴジラ」は純粋に映画として面白かった。(映画のストーリーにのめり込んだため、正直なところ鑑賞中は野村萬斎のことをすっかり忘れてしまっていた)。そして、同監督の代表作「新世紀エヴァンゲリオン」のように多様な解釈や考察が生まれる作品だな、と感じた。
そこで私は新しい発見を求めて、Googleで鑑賞後の感想についてインターネットで検索をしてみた。映画の公開後まだ数日であるにもかかわらず、すでに膨大な数の情報が検索結果には並ぶ。冒頭に登場する船の名前や船内に残された本、石原さとみの英語力、ヤシオリ作戦のルーツ、エンドロールで流れる音楽の順番…。ここでその詳細について触れることはしないが、映画をただ観るだけでは知り得ない数多くの情報を知ることが可能で、より一層映画の深みとこだわりを感じることができた。
鑑賞した映画の余韻が残る状態で、これらの情報に触れることによって、内容の振り返りをすると同時に、もう一度観たいという欲求が生まれる。自分が見逃したシーンやセリフ、そこに隠された意味などを実際に確認したくなる。事実、私はこの映画のリピーターになってしまった。
私の個人的な体験を書き連ねたのは、「シン・ゴジラ」が私たち鑑賞者に「広がる」メカニズムをまさに体現していると思ったからだ。
ファンが「余白」を補完し合う
上記のように「シン・ゴジラ」は、多様な解釈に開かれた作品だ。叙述が、ヒントを散りばめつつもあえて不完全なまま放り出されている。描かれないその「余白」は、鑑賞者おのおのが補うように促される。
自分の知識で「余白」を埋めることができれば、その「読み」を他の鑑賞者に伝えたくなる。自分の中に答えの持ち合わせがなければ、インターネットなどで調べて他人の解釈や説明を読んで消化したくなる。ソーシャル空間に情報を「出す」側にも、そこから情報を「受ける」側にもインセンティブがある。
つまり、この作品は、映画館の「外」で補完されるように設計されているのだ。だからこそ日経ビジネスオンラインで「『シン・ゴジラ』、私はこう読む」という特集が成り立った。情報を一方的にブロードキャストする従来の作品とは異なる、ポスト・モダン型とも言うべき作品のありようと言っていいだろう。
こうした作品のありようと支えるツールやサービスが数多く登場している。ツイッターのような交流サイト(SNS)やGoogleなどの検索エンジンはもちろん、「Filmarks」のような映画のソーシャルレビューアプリも人気を集める。これらのツールの多くはユーザーデータを連携することができるため、Facebookでつながっている友人や知り合いの内、趣味が近い人の評価の高い映画を調べることなどもできる。
鑑賞者による情報発信はメディアのスピードを超える
言うまでもないが、この仕組みは、鑑賞後の満足度を引き上げ、(私のような)リピーターを生み出すと同時に、新たな顧客を生み出すことにも繋がっている。デジタルマーケティング関連で最近よく聞く言葉で言い換えるとすれば、「エンゲージメント」(サービス利用者との関係性)の強化と、「コンバージョン」(サービス利用者のアクション、例えば「会員になる」「利用料を払う」など)の創出に寄与している、となる。
宣伝費を費やして広告露出を増やすのではなく、鑑賞者が自らの動機で世界中に情報を発信し、それが共有され、ゴジラ細胞のごとく広がっていく。旧来型のメディアよりも、その鮮度と伝達のスピードはソーシャルメディアが圧倒的に有利だ。
劇中でも、日本政府がゴジラの存在を正しく認識する契機になったのは、Youtubeやツイッターなどのソーシャルメディアであることが描かれている。
もっともその情報の疑わしさから、ほぼすべての政府閣僚がゴジラの存在を確信したのはテレビ中継後、であった。何となく、現実世界でゴジラが出没したとしてもそうであろうと納得できる展開である。ゴジラ上陸後の、群衆がスマホを片手に写真や動画を撮影する姿が頻繁に登場する点も印象的かつリアルに感じられた。
今や現場にいる誰もが速報を出せる時代であり、「シン・ゴジラ」の世界ではツイッターが大活躍していることだろう。
読者との交流から新たな記事が誕生
日経ビジネスオンラインの連載でもソーシャルメディアを活用した新たな取り組みを試みている。ツイッターに、いわゆる“中の人”を入れたことだ。日経ビジネスオンラインのツイッターアカウントを眺めてみていただきたい。ファンのみなさんと「シン・ゴジラ」についてコミュニケーションを交わす公式アカウントの姿をご確認いただけるはずだ。
運用を開始してから、多くの方にアカウントをフォローしていただいている。
ここでの交流から新たな記事が生まれもした。また、フォロワーの方々が連載や記事の存在を拡散させてくれたおかげで、多くの新しい読者を得た。ちなみに現時点での閲覧状況トップは、防衛大臣の石破茂氏から寄稿いただいた、「石破氏:ゴジラを攻撃した戦車はどこから来たか」である。当特集全般に言えることだが、通常の記事と比べて、PCよりもスマホでよく読まれているようだ。ソーシャルメディア中心に拡散し、記事が閲覧されていることがうかがえる。
ソーシャル分析のツールを確認すると、石破氏の記事の反響の大きさが分かる。
ツイッターで記事公開日に「おそ松さん」「ネコ化」などのキーワードと同水準のボリュームでリツイートされていることに違和感を覚えつつも、これは読者のみなさんに刺さるものがあったことを証明している。また、記事が読まれる時間帯や読者ひとりあたりの読了状況なども通常の水準より高く、「シン・ゴジラ」への関心度の高さを見ると同時に、日経ビジネスオンラインの読まれ方にも新たな広がりを感じることができた。
ソーシャルメディアはあくまでコミュニケーションツールだ。その中で話題になるということは、すなわちそのコンテンツが良くも悪くも魅力的なもの、引きが強いものであることが大きな要因になる。「シン・ゴジラ」は監督のこだわりや製作陣のディテールへの追求を十分に感じられる名作で、それゆえソーシャルで大いに拡散した(もちろん完全に内容を隠蔽したプロモーションなど、その他施策の効果も大きいと思う)。
ここで私の仕事に立ち返りたい。「シン・ゴジラ」の製作陣と同様に、一本一本の記事を生み出す編集者の想いは妥協を許さない真摯なものだ。だからこそ、それらのコンテンツを世の中にどう広めていくことができるのかを我々はずっと考えている。
数は多くなくても良い。そのコンテンツを潜在的に必要としている読者のもとに、どうすれば届けることができるか。
未だ答えは見つからず、日々試行錯誤と失敗の連続ではあるものの、「シン・ゴジラ」というコンテンツが世の中に広がり様々な議論や意見交換を生む姿を見て、少し勇気をもらった。
正しい過程を経て作られたコンテンツは必ず誰かに必要とされる。そしてそれを届ける仕組みは既に存在している。
読者の皆様へ:あなたの「読み」を教えてください
映画「シン・ゴジラ」を、もうご覧になりましたか?
その怒涛のような情報量に圧倒された方も多いのではないでしょうか。ゴジラが襲う場所。掛けられている絵画。迎え撃つ自衛隊の兵器。破壊されたビル。机に置かれた詩集。使われているパソコンの機種…。装置として作中に散りばめられた無数の情報の断片は、その背景や因果について十分な説明がないまま鑑賞者の解釈に委ねられ「開かれて」います。だからこそこの映画は、鑑賞者を「シン・ゴジラについて何かを語りたい」という気にさせるのでしょう。
その挑発的な情報の怒涛をどう「読む」か――。日経ビジネスオンラインでは、人気連載陣のほか、財界、政界、学術界、文芸界など各界のキーマンの「読み」をお届けするキャンペーン「「シン・ゴジラ」、私はこう読む」を開始しました。
このキャンペーンに、あなたも参加しませんか。記事にコメントを投稿いただくか、ツイッターでハッシュタグ「#シン・ゴジラ」を付けて@nikkeibusinessにメンションください。あなたの「読み」を教えていただくのでも、こんな取材をしてほしいというリクエストでも、公開された記事への質問やご意見でも構いません。お寄せいただいたツイートは、まとめて記事化させていただく可能性があります。
119分間にぎっしり織り込まれた糸を、読者のみなさんと解きほぐしていけることを楽しみにしています。
(日経ビジネスオンライン編集長 池田 信太朗)
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