有害鳥獣に防衛出動や治安出動はあるか

【妄想】――都の災害対策本部長を務める小塚東京都知事は、巨大不明生物は警察力では排除できず、駆除しないと都民の生命・財産にさらに被害が及ぶと判断。危機管理監と協議し、防災センターに詰めて本隊との連絡に当たっていた陸上・海上・航空自衛隊の連絡員に対し、災害派遣での害獣駆除の検討を要請する。検討の結果、市街地での火器使用となることから、政府の緊急対策本部に判断を委ね、政府・防衛省は巨大不明生物駆除作戦を立てることになる――

 映画本編で2カット、ほんのわずかの時間「リエゾン ○○省」と書かれたビブス(ゼッケン)を身につけた人物の後ろ姿が登場している。リエゾンとは「連絡員」のこと。政府の各会議の正式メンバーではないが、各省庁と素早く連絡を取って連携を図るための存在だ。実は、都庁防災センターには、平時から警視庁、東京消防庁、自衛隊の連絡員が詰めている。実際にゴジラがやってくれば、まず東京都の災害対策本部で警視庁の警察力で撃退できないかが検討され、次に陸・海・空の自衛隊からの連絡員が自分たちの部隊と連絡を取って検討されると思われる。

 なぜなら、作中、ゴジラは「有害鳥獣」の扱いを受けているからだ。イノシシ・カラス・ニホンザル・シカ・クマ・キツネと同じ扱いであり、その駆除は自治体の仕事なのである。

 シン・ゴジラ本編では、陸上を品川まで進み、第3形態に進化して立ち上がった巨大不明生物への対応はすべて政府で行われている。「駆除のため自衛隊の火器を使用する」、「東京都知事の治安出動要請を受ける」、「大河内首相の災害緊急事態布告」、「自衛隊に防衛出動の命令」という流れだ。ここから、ゴジラ対自衛隊の戦いが始まる。

 自衛隊が、初めて国民に危害が及ぶ可能性のある攻撃に移る。撃つか撃たないか、緊迫感がいやがおうでも高まるシーンでもある。

 だが、石破元防衛相が指摘する通り、シナリオでのシミュレーションの流れはいきなり解せないものとなる。災害対策基本法に定められた災害緊急事態の布告と、防衛出動はつながらない。また、防衛出動は他国からの侵略という要件がないと発動できないし、小塚東京都知事の要請した「治安出動」も、テロや暴動を想定しその制圧のための出動であるからさらに整合性がとれなくなる。ちなみに、都の災害対策本部が国の緊急対策本部の指揮下に入るのは、外国からの攻撃を想定した国民保護法が発動した場合のみである。

 この脚本には「大穴」がある(なぜなのかは後編で考察しよう)。

 やはり、現実には、自衛隊は都知事の要請による災害派遣でゴジラ駆除に出動するということになるのではないか。地震や風水害の救助・復旧が主な目的である災害派遣に火器使用はおかしいと思われるかも知れないが、過去、火器を使用した例がある。1960年、谷川岳で登山者がザイルで宙吊り状態で死亡した際に、機銃掃射でザイルを切断し落下させて遺体を収容した例、北海道でトドの被害に困った漁民の要請を受け、航空自衛隊のF-86戦闘機が出動し、機銃掃射を浴びせた実例がある。前例主義のお役所であるから、過去に例があればその拡大解釈で実現させるのが通常であろう。

 さらに、住民の避難誘導も自治体の役目である。本編では品川と鎌倉、横浜で描写されているが、当然、ゴジラ来襲を想定した避難計画はないので、日本が武力攻撃を受けた際の国民保護法にもとづいて各自治体で作られている避難計画を準用しているのではないかと思われる。だが、本編では防災無線や消防車の放送で避難を呼びかけており、「国民保護サイレン」が鳴っていないので、国民保護法自体は発動していない、すなわち、武力攻撃事態とはやはり考えられていないものと思われる……。

……とまあこんな具合に『シン・ゴジラ』は、国と自治体の役割、災害法制と有事法制、そして実際の避難オペレーションなど、現在定められている危機に対する即応体制について、いろいろシミュレーションとして考えさせられることが多い

 有事に際して、自治体はどう動くのか。後編は、3.11の東京都の動きを振り返りつつ、首都直下型地震へのシミュレーションが実際にどう行われているのかを見ていきたい。

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(日経ビジネスオンライン編集長 池田 信太朗)