溝渕:なるほど、うまいことを仰いますね。建築の世界は、アーティスト(意匠)系の建築家と、現場とのせめぎあいでもあります。建築家は“勝手”な発想をするわけですよね。また、それを求められてもいる。それを、構造的に持つように実際の図面にする人がいて、施工するスタッフがいて。「なんでまたこんな形に、無理だろう、でもやろう」と(笑)。高い評価を受けるのは建築家だけというのは、ちょっとギャップ感はありますよね。

 昔の代々木体育館は、あんな大空間をPC(プレストレストコンクリート)で作った。あの当時、あれだけのものをよく作ったと思います。やはり、細部にこだわる優秀な現場が、施工、構造設計があったからこそでしょう。「シン・ゴジラ」からえらく話が飛びましたが、大きな“作品”を見るときには、細部を担当したひとたちの意識の高さも、ぜひ忘れずに覚えておきたいですよね。

引きの破壊が怖かった

 すっごくあれこれ言いたくなる映画なんですが、あまり言葉を持ってないので少しだけ。わりと映画は理屈で考えず、素直に楽しむタイプです。なので、印象の話というか感想を言います。蒲田や北品川の破壊は、街歩きイラストルポで描いたので有名な建物よりぐっときました。

東京右往左往』“京急人生”編より。ほぼ同じ構図が映画に登場。「やっぱりここになるんですよね」(モリナガ氏談)

 絵として印象に残っているのは、鎌倉上陸で尻尾が屋根の上を抜けていくところ、そして、鎌倉を乗り越えて、緑区とかの住宅街をまっすぐ踏みつぶして進んで行くところですね。目がうるっと来ました。え、なぜかって? 子供のような、純粋な破壊の“面白さ”、街を壊す、ビルを壊すのに、すごいカタルシスがある。

 でも一方でそこに人が住んでいることを知っている。自分がおっさんだからかもしれませんが、「破壊」の見せ方としてビルが壊れるのではなく、住宅地を破壊していくのが印象深かったです。それをロング(遠景、引き)で見せる見せ方も。誰かに感情移入する間もなく、破局が進んでいく。引きで見ていると個別が分からない。大被害の前にひとりひとりの日常が失われていく、その個別の悲しみと、引きで見たときに感じるカタルシス、そして絶望感。すごい絵でした。

「なにこれ、なにこれ」

 あれは、3.11のときの中継画面とか、いろいろな出来事のアナロジーなんでしょうけれど、僕は、「自然はユーモアを解さない」「理由なんかない」という場面として見てました。地震に理由があるか? あるわけないよな、と。

 理詰めで感動や恐怖を与えるのではなく、ビジュアルの力で投げつけてきましたよね。昔、水爆実験の記録フィルムをつなげた映画見たことがあるんですが、ソ連のセミパラスチンスクの実験場で、原子雲が次々と上がる様子を見せられて、「ああ、感動と倫理は別なんだ、すごい」と思い知りました。台風の映像、津波の映像は、心がざわつきながらも見入ってしまう。

図解絵本 工事現場』より、地下式LNGタンクの基礎工事。「コンクリートの圧送器(壁面にアームを伸ばしている機械)も沢山描きました。クライマックスの第一波コンクリ圧送部隊が全滅したのが切なかったです。大変な技術を持った決死隊だと思うんですけど、積み上げた経験と技術が一振りで…」(談)

 溝渕先生は新宿でご覧になった、そうですか。私は、立川(シネマシティ)の「(極上)爆音上映」で見ました。そう、絶好の場所(笑)。見終わった後、映画館を出たら、街が変わって見えたのを覚えています。ビルの後ろに怪獣がいそうなあやうい世界になってしまいました。そういえばもろもろ危ういままでした、ということを思ったといいましょうか。初代ゴジラも、ビキニ環礁の核実験の後だけに、似たリアリティを当時のお客さんはきっと感じたんだろうな、と思いましたっけ。

 まだその気分がちょっと続いていて、クルマでトンネルを走るときに「なにこれなにこれ」とか、ちょっと言いたくなります。なりません?(笑) やっぱり、現実を「そのまんま」表現してやろう、という気持ちがこもった作品は面白いし、後で見返したときも発見があって楽しいんですよね。自分も及ばずながら、そう思って描いてます。(談)

モリナガ・ヨウ イラストレーター。今年、『築地市場: 絵でみる魚市場の一日』で第63回産経児童出版文化賞・大賞を受賞。日経ビジネスオンラインでの記事は「すみません、築地市場、なめてました!」をどうぞ。

読者の皆様へ:あなたの「読み」を教えてください

 映画「シン・ゴジラ」を、もうご覧になりましたか?

 その怒涛のような情報量に圧倒された方も多いのではないでしょうか。ゴジラが襲う場所。掛けられている絵画。迎え撃つ自衛隊の兵器。破壊されたビル。机に置かれた詩集。使われているパソコンの機種…。装置として作中に散りばめられた無数の情報の断片は、その背景や因果について十分な説明がないまま鑑賞者の解釈に委ねられ「開かれて」います。だからこそこの映画は、鑑賞者を「シン・ゴジラについて何かを語りたい」という気にさせるのでしょう。

 その挑発的な情報の怒涛をどう「読む」か――。日経ビジネスオンラインでは、人気連載陣のほか、財界、政界、学術界、文芸界など各界のキーマンの「読み」をお届けするキャンペーン「「シン・ゴジラ」、私はこう読む」を開始しました。

 このキャンペーンに、あなたも参加しませんか。記事にコメントを投稿いただくか、ツイッターでハッシュタグ「#シン・ゴジラ」を付けて@nikkeibusinessにメンションください。あなたの「読み」を教えていただくのでも、こんな取材をしてほしいというリクエストでも、公開された記事への質問やご意見でも構いません。お寄せいただいたツイートは、まとめて記事化させていただく可能性があります。

 119分間にぎっしり織り込まれた糸を、読者のみなさんと解きほぐしていけることを楽しみにしています。

(日経ビジネスオンライン編集長 池田 信太朗)

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大変遅ればせになりましたが、「沈埋函」について触れていたサイトのURLを追記させていただきました。 [2016/09/26 13:30]