残念ながら、それが現実だ、と。

石破:それもある意味で、仕方がないことなんです。だって、大学に入っても本質についてきちんと学ぶことはほとんどない。私は法学部を卒業しましたが習っていない。国家公務員試験をパスして官僚になる人も分かっていない。経団連に加盟しているような大企業にお勤めの人も知らない。おそらく法曹界の弁護士でも、分かっている人はごく少数だと思いますよ。

 そういう状況下で自衛権をどうするか、緊急事態に対応するにはどうすべきか、という議論が行われていることを私は危惧しています。

政治家の行動原理は票とカネだから

石破事務所には防衛に関する書籍が並ぶ(写真:的野 弘路)
石破事務所には防衛に関する書籍が並ぶ(写真:的野 弘路)

しかし、現実問題として北朝鮮のミサイルが今日、発射されるかもしれない。あるいは尖閣諸島の周辺では、今この瞬間も中国海警局の船が日本の領海に侵入しているかもしれない。そういう脅威に晒されすぎて、国民の方もその脅威にだんだんと麻痺してきた状況です。

石破:政治家はこの手の話はやりたがらない。だって、世の中に受けないからです。国防に関わる話をしても票にならないし、パーティー券も売れないでしょう(笑)。政治家の行動原理は票とカネだから。全員とは言わないが、大半がそうです。でも私は、そういう国家のベースとなるところをきちんと議論するのが政治家だと考えています。そのベースがあって、そこから農林水産分野だろうが、建設だろうが、文教だろうが何でもいいんですけど、票やカネにつながることをおやりになればいい。でもベースはやっぱり、国家の独立とは何かということでしょ、と。

 我々自民党と民進党などでは立場や主義主張は大きく異なりますけれど、基本となる知識や用語について共通の理解がないと、まともな議論にならないのですよ。しかし現実には共通理解がないまま、感情的なやり取りだけが行われる。

とくに、去年の安保法制の議論には違和感を覚えました。

石破:おかしかったでしょ。国会の周囲にも「憲法9条を守れ」「戦争法案を許さないぞ」とデモをする方はたくさんいました。でも、基本的なことが国民に理解されないまま、数で勝る与党によって採決が進む。そんな状況だったので、当時、地方創生大臣だった私は「国民のご理解が進んだという自信がない」と発言したら、「貴様、安倍内閣の一員なのにそんなことを言うのか」と批判されました。でも、分かってないのは事実でしょ、と。

 では憲法改正の議論の時はどうするか。国民投票ですからね、国民がきちんと中身を理解しないまま投票したらどうなるか。

Brexit(ブレグジット)の例もありますからね、その時の流れで極論に傾いてしまう恐れがありますね。

石破:国の独立を守るというのは容易なことではない。この国はなぜ、太平洋戦争という勝算のない戦争に突き進んでしまったのか。そこの検証と反省ってどれくらいできたんでしょうか、と思うんですね。当時の国民は、アメリカの工業力とか工業生産額とか、あるいは資源力とか、全然知らされていなかったわけでしょ。教わったのは「鬼畜米英」ということ。敵は鬼であり、獣だと。

 また、アメリカは民主主義の国だから、最初にがーんとやってしまえば、厭戦気分が高まって有利に講和に持ち込めるぞと。要するに、正確な情報が国民に伝わらないまま戦争になってしまった。

 では、今の日本でも正確な情報がきちんと国民に伝わっているのでしょうか。

それはメディアの問題でもあります。

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