石破茂・元防衛大臣は「超法規的措置としての防衛出動」に疑念を表明している。自身のブログに「防衛出動が自衛隊に下令されることには違和感を覚える」と書き、炎上を招いたが、結論から言えば、石破説が正しい。防衛出動を定めた自衛隊法第七十六条はこう明記する。

 「内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。(中略)
一  我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態
二  我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(以下略)」

 「二」が、いわゆる集団的自衛権の限定的な行使となる「存立危機事態」であり、本年3月に施行された平和安全法制(いわゆる安保法制)」で新設された。「一」は個別的自衛権の行使に当たる旧来の要件である。ここでは「二」の是非は論じないが、「一」「二」ともに「武力攻撃」が要件とされている点に注目いただきたい。

 本来なら論じるまでもないが、ゴジラは「武力」ではない。政府答弁も「国または国に準じる組織」に限定している。したがって政府は防衛出動を発令できない。ゆえに武力行使できず、ゴジラは倒せない。実は映画のなかで官僚が上記条文を読み上げ、防衛出動に異を唱えるが、結局、発令に至る。監督らは、無理を承知で防衛出動をかけた。そういうことであろう。

もしゴジラで防衛出動が許されるなら…

 自衛隊に防衛出動をかけなければ、ゴジラ映画は成立しない。すぐれたエンターテインメントではあるがドキュメンタリーではない本作を非難するつもりは毛頭ない。ただ、石破代議士(と私)を除き、誰ひとり、以上の論点に敷衍しない現状には疑問を覚える。

 ゴジラで防衛出動が許されるなら、「存立危機事態」でも出動できる(よう法整備した)のは至極当然である。もしゴジラ来襲で超法規的出動が許されるなら、国民の生命が根底から覆される明白な危険のある場合(存立危機事態)の出動は当然であろう。だが、後者を護憲派は「戦争法案」と呼び、「立憲主義が揺らぐ」と非難し、「徴兵制になる」と扇動した。だがゴジラなら誰も超法規の出動に異を唱えない。これまでの議論は何だったのか(詳しくは9月刊の拙著『そして誰もマスコミを信じなくなった』飛鳥新社)。

 ゴジラで防衛出動が許されるなら、集団的自衛権の行使に加え、防衛出動が発令される前に奇襲を受けた場合の個別的自衛権(武力行使)も当然行使できる。だが、奇襲を受けた際の超法規的行動に言及した自衛官のトップ(栗栖弘臣・統合幕僚会議議長、当時)は罷免された。たとえ外国軍の奇襲を受けても超法規的行動が許されないのなら、ゴジラ来襲での超法規的出動も許されないはずだ。憲法と自衛隊を巡る戦後日本の議論は、いったい何だったのか。強い疑問を禁じ得ない。

 蛇足ながら、映画では永田町や霞が関が壊滅するなか、皇居は登場しない。総理以下、主要閣僚らが犠牲になるなか、天皇及び皇族の安全が確保された形跡はない。万一あれが戦後日本の現実なら、そんな政府に存在意義はない。以上の問題点をスルーしておきながら、石破ブログを炎上させたネット保守陣営にも呆れる。右も左も、底が浅い。

 「いざとなったら、超法規で防衛出動」は、ゴジラ映画の中だけにしてほしい。現役防大生の父親として、心からそう願う。

潮 匡人(うしお・まさと)

軍事ジャーナリスト。拓殖大学日本文化研究所 客員教授。
1960年、青森県八戸市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科博士前期課程修了。
早稲田大学法学部卒業後、航空自衛隊に入隊。
第304飛行隊、航空総隊司令部、長官官房勤務等を経て三等空佐で退官。
その後、聖学院大学専任講師、防衛庁広報誌編集長、帝京大学准教授などを歴任

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