原材料の段階から思いを込める

黒川:菓子屋ですので、当然「おいしいもの」を出さなければダメ。おいしいものをつくる。その一点に尽きるわけです。

 では、おいしいものの鍵となるのは何か。それは小豆、白小豆、寒天、砂糖などの原材料です。

 例えば、白小豆にしても、生産者の方々に「よし、虎屋のために一生懸命つくる」と思っていただけるような姿勢をこちらも示していく。

 気持ちだけではいいものはつくれませんから、味を測定する科学的な検査を導入したり、意見交換したり、品種改良について一緒に考えたりと、生産者の方と一緒になって原材料と向き合っているつもりです。

 ところが和菓子の原材料というのは、いわば自然の農作物ですので、その時の気候によって出来が非常に変動するのです。昨年と同じものが今年もできる、なんてことはほとんどない世界です。

 ヨーロッパのワインは「今年のブドウはいい出来だ」と売っていますが、あの方法をうちも早くやっておくべきだったと思っています(笑)。

 これは冗談のようで半分真面目な話でして、これからは気候や気象による味のバラつきをあえてオープンにして“味の特徴”として楽しんでいただけるような商品づくりにもトライしていこうと考えています。

山田:「おいしい和菓子」の追求のためになさっていることをすべて挙げるとキリがないとは思いますが、例えば一部の和菓子に使用する「和三盆」も手作業にこだわっていらっしゃるのだとか。

黒川:そうですね。すべて手作りでつくっています。

 砂糖をもんで、重石をかけてから水分を抜き、しばらく置いてから、また翌日に同じ行程を繰り返す。

 このうちの「重石をかける」部分だけでも機械を使えばいいんじゃないか、なんて私も思ってしまうわけですが、職人に聞くと「石じゃなければダメ」なんです。

 いわく「その日の砂糖の状態を見ながら大きな石と小さな石を組み合わせる」と。

 そういった思いを聞きますと「なるほど」と思いますし、「でもやっぱり機械化したほうが職人も重い石を持たなくて済んでラクになるんじゃないか」と思ったりもします。

 何より、つくり手の思いを大事にしたいと感じます。ですから、できるだけ私も現場に行って一緒に話しながら製品をつくっていきたいと思っています。

山田:そのつくり手の営みを感じられる場所、御殿場の工場と「とらや工房」も伺わせていただきましたが、素晴らしい施設でした。経営理念の後半、「喜んで召し上がっていただく」というコピーにはどんな思いがあるのでしょう。