伝統工芸だって、変わらなければ生き残れない
山田:伝統工芸分野でよく聞かれる「職人不足」の悩みから脱却したということでしょうか。
細尾:ありがたいですね。以前は募集をかけてもなかなか集まらなかったのですが、今では1枠に全国から10〜20倍の応募が来るようになりました。しかも、トップクラスの芸術大学やアートスクールを出たような若者が来てくれる。伝統産業をクリエーティブ産業と考えて、熱意を持って働いてくれるんです。
山田:かなり先を行っている印象ですが、当初は社内でも反対されたそうですね。常識を破って新しいことに挑戦する時には「ここまでやってもいいのか?」という迷いは付き物だと思います。もしかしたら業界から怒られたかもしれません。
細尾:怒られましたね(笑)。「こんなのは帯じゃない」という批判は受けました。
山田:そういう時、どうやって歩を進めていくのでしょう。
細尾: 本当にやるべきことを見失わないことが大事だと思っています。僕は「これが帯なのか、帯ではないか」という議論はしたくありません。そうではなく、未来の話をしたいんです。
僕たち伝統工芸を継ぐ者たちの使命は、過去を見つめるノスタルジーから脱却して、次世代にバトンをどうつなぐかを考えて行動することです。
僕にとって大事なのは、織り機を1台でも増やして、1人でも多くの若い職人を雇用して育て、彼らが作ったものが世界に展開されていくことです。それしかないという確信があったので、周りに何を言われてもあまり気にしていませんでした。
山田:「伝統は守るべき」という葛藤はありませんでしたか。
細尾:ダーウィンは「進化論」の中で、生物界で世代を超えて生き残る種は、環境に合わせて変わり続けるものだと唱えています。伝統工芸も同じで、いかに創造力をもってチャレンジして変化していかなければ生き延びられない。そういう意味では、伝統を守り続けるだけで変わらないことの方が、僕は恐ろしくて仕方がないです。
山田:変化の範囲をどこまでも広げているのが細尾さんの挑戦ですよね。先日、(トヨタ自動車の)レクサスのショールームで拝見した展示も素晴らしくて。
細尾:アーティストのスプツニ子!さんとのプロジェクトで、西陣織にバイオテクノロジーを組み合わせたコラボレーションを展示しました。
遺伝子組み換え技術によって、クラゲが持つ蛍光タンパク質の機能を持たせた蚕を作って、その蚕が生むシルクで織った光る西陣織作品です。
ほかにも、クモのDNAを抽出して遺伝子組み換えをして、強度を140%まで高めた西陣織など。話し出すと止まらなくなりますが、最先端のバイオテクノロジーとのコラボレーションも本当に面白いですし、人工知能で織物のストラクチャーを開発する試みや、東京大学との共同研究にも取り組んでいます。
山田:ここまでやってもやっぱり「西陣織」であり続ける。細尾さんは「結局、戻って来る場所が伝統なのだ」とおっしゃっていますね。
細尾:伝統は、強靭なゴムのようなものだと思っています。例えばビルの10階からバンジージャンプをしても落ちない、しっかりと引き戻すパワーがあるんです。
どんどん壊して新しいものを作ろうとしても、簡単には壊れない。あるいは、壊そうとする力さえ飲み込んで進化していく。その懐の深さが伝統であり、僕はやっぱり伝統を愛しているからこそ、壊しにいく。
どれだけ思い切って高いところから飛び降りても、引き戻される。ただ、ちょっとでも伸びたその差が進化につながると思っています。
(後編に続く)
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