教員も学生も驚くほど個性豊かなAPU
出口治明のAPU学長日記―2018年7月吉日その2
2018年7月9日から13日。APU(立命館アジア太平洋大学)で開催された「インドネシアウィーク」は大きな盛り上がりを見せました。
今年のコンセプトは「インドネシアの栄光を広めよう」。オープニングとなる9日には、夏の陽ざしが注ぐキャンパスの中心でインドネシアの各地域や島を代表する異なる踊りのパフォーマンスが行われました。
カフェテリアではインドネシア料理のナシゴレンやソトアセム(スパイスを多く使った鶏肉のスープ)、グラメラ(砂糖椰子)を使ったプリンなどのメニューが登場しました。
7月9日からAPUで開催された「インドネシアウィーク」の様子
また、民族衣装を着て写真を撮るブースが設けられたり、インドネシア版お化け屋敷があったり、グランドショーではインドネシアの伝統的な踊り・サマンダンスを披露したり。
キャンパス一帯が、日本とは思えないような雰囲気に包まれていました。
「インドネシアウィーク」は「マルチカルチュラルウィーク」の一つで、APUに通う学生の出身国や地域の言語や文化、慣習などを週替わりで紹介するイベント。授業期間中は、月に1~4回ほど開催され、企画や運営はすべて学生が担っています(2018年6月はオセアニア、チャイニーズ、バングラディシュ、そして沖縄とほぼ毎週開催されました)。
もちろん、出身の学生が少ない国や地域もありますから、当該の国や地域以外の学生も主催側で参加しています。
どのウィークも、最終日のグランドショーは実に見事なもので、学内はもちろん、別府市民の皆さんもわざわざ見に来られて長蛇の列ができるほど。
多文化理解だけではなく他国への尊敬も育めるすばらしいイベントですから、みなさんもぜひ体験しにお出でください。
先生や職員がおもしろい!
マルチカルチュラルウィークはいかにもAPUらしいイベントですが、制度やイベントだけでは語り尽くせない魅力がいろいろなところに詰まっているのもAPU。
それは「人のユニークさ」です。教員も職員も学生も、とにかく優秀でおもしろい人が多いのです。
例えば学生部長を務める清家久美先生が顧問になっている学生たちの勉強会では、一回生がハイデガーについての発表をしていました。僕も招かれて意見を求められ、大学時代に1回しか読んだことのない「存在と時間」を思い出しながら、冷汗もののコメントをしました。
また、国際経営学部の学部長で経営管理研究科長である大竹敏次先生は、APUが国際認証AACSBを取得する際の中心人物ですが特筆すべきは、ドイツ人、フィリピン人、カナダ人、バングラデシュ生まれのオーストラリア人という4人の副学部長を束ねていること。
グローバル企業よりもグローバルな人材マネジメントを行っているわけで、僕にはとうてい務まりません。
事務局長の村上健さんのキャリアもユニークです。若い頃はJICA(国際協力機構)のボランティアの一員としてパラグアイで「野菜栽培の指導」に打ち込み、英語やスペイン語を習得。帰国後はNGOで働いたあと、大分で農業に従事したものの、一念発起して大学職員の道に進んだそうです。
こうしたキャリアの人間が事務局長を務めることは、あまり一般的ではないでしょう。
また、この学長日記にも登場した今村正治副学長は、APU愛もキャラクターも強烈ですし、地域貢献と言っては別府の街でよく飲食しています。僕と一緒に食事に行ってもちょっと行くところがあると言って、気付くとどこかへ消えてしまいますしね(笑)。
もちろん日々の授業や研究についても、多くの若い先生やベテランが、アクティブラーニングなどに正面から取り組んでいます。
APUというユニークな場に共感して集ってくれた教職員はやはり志のある人が多く、目指すものが明確で教育熱心な人が多い。こうした人材によってAPUは形づくられているのだと日々感じています。
僕の仕事は、そんな教職員の皆さんが「いい教育」や「いい研究」が伸び伸びと自由にやれる環境をつくること。それが引いては学生に還元されるのです。
ユニークで意志のある学生が集まるAPU
APUには個性豊かな学生たちが国内外から集まっている
ユニークなのは、学生も同じです。僕がキャンパスを歩いているとよく学生から声をかけられるのですが、こんなにおもしろい、変わった学生がいるものかと感心してしまいます。
例えば、「スティーブ・ジョブズを超える」と公言している学生や、「マザー・テレサの後継者」を自認している学生。いずれも日本人ですが、志の高さが並大抵ではないでしょう(笑)?
ジョブズくんとの出会いは、フェイスブックのメッセンジャーでした。ある日突然、SOSが送られてきたことがきっかけです。
「学長、助けてください!」と切羽詰まったメッセージで、いったいどうしたのかと思って読んでみたら、クラウドファンディングを成功させるためSNS(交流サイト)で拡散してほしいと言うのです。
学生3人で議論していたときに「世界を知るためには中国の深センに行かなければならない」という話になり、その場で3日後出発の飛行機のチケットを購入してしまったそうです。
しかし、3人分のチケットで10万円が必要なのに、みんなの貯金を合わせても2~3万円しかない。そこですぐにクラウドファンディングを始めてみたものの、3人とも学生なのでフォロワーの数が少ない。
「学長はフォロワーも友達も多いでしょう。どうか拡散してください」……というわけです。「おもしろい学生やな」とその行動力に敬意を表して拡散したところ、無事に7~8万円を集めることができたと喜んでいました。
ちなみに、この学生の行動に対しては、僕の友人から2つの反応がありました。
ひとつは、「学生を甘やかしてはいけない。アルバイトをしてお金を貯めてから行くのが筋だ。無鉄砲な学生に甘い顔をして調子に乗らせてはならない」というリアクション。もうひとつが、「投資を決めてからファイナンスを考える。企業と同じ発想ができるこの子たちの将来が楽しみだ」というリアクションです。
みなさんは。どう思われますか。2人とも僕と同じくらいの年齢で、「甘やかしてはならない」と言ってきたのは日本を代表する大企業に勤めていた友人でした。
後者の「楽しみだ」と喜んでいたのは留学経験のある中央官庁のキャリアの友人。この2人で判断するのも早計ですが、大企業のほうがルールに対して厳格で、頭が固く若者に対してシビアなのかもしれませんね。
学生同士で起こる化学反応
話を戻すと、APUはこのようにユニークな学生が本領を発揮できる場です。日本の高校で窮屈さを感じていた学生も、APUに来ると自分を出せると言います。
先日は、東京の有名私立一貫校(幼稚園から大学院まで)の幼稚園から高校までエスカレーターで進み、大学でAPUに進学した学生と話をする機会がありました。
彼女に、「なんでエスカレーターから降りたんや」と聞いたところ、その一貫校が肌に合わなかったからだと言うのです。文化祭などで何かにチャレンジしようとすると「前例がない」「常識的な発想ではない」「お嬢さんがすることではない」などと、禁止ばかりだったそうです。
そんな窮屈さがイヤでAPUに来てみたところ、何をやってもみんなが応援してくれるし、おもしろがってくれるし、協力してくれる。おかしな友人がたくさんいて、毎日が楽しいと笑っていました。
その彼女はいま、グアテマラに水を送る運動をしています。寮で友達になった学生からグアテマラではきれいな水を飲めないという話を聞き、なんとかしたいと思い立ったそうです。これもすごい行動力ですね。
APUは、このようにとがっていて一風変わった学生が集まりやすい環境だと思います。日本中に山ほどある大学の中から、わざわざ別府の「山の上」を選ぶという意思決定をする18歳が集まるわけですから。
しかし当然ながら、はじめから意志の強い学生ばかりが集まるのではありません。先日開いた父母会で、大分の進学校から来た女子学生が行った発表を紹介しましょう。
彼女は高校時代、やりたいこともなく、勉強することもなく、だらだらと過ごしていたそうです。すべてが中途半端で、最後までやり遂げたことは一つもなかったと。一言で言えば自分はクズでした、と。半分不登校のようでしたと。
彼女は先生に勧められるままに受験した国立大学を落ち、第一志望ではなかったAPUに仕方なく入学しました。寮に入っても、はじめはやはりぐずぐずして引きこもっていた。
ところが、たまたま出会った寮の先輩がとても前向きで素敵な人で、はっと目覚めた。その先輩のようになりたいと思い、自分で何か目標を決めて実行してみようと考えた。
そもそも、その先輩はなぜ生き生きしているのだろう。そう不思議に思い聞いてみると、留学して広い世界を見たからだと教えてくれた。そこで彼女も留学を決意し、毎日英語を自主的に勉強して、留学を実現した。そしてようやく自分のやりたいことを見つけたとうれしそうに話していました。
そんな化学反応が起こるのも、APUなんですね。
APUには、ここに書き切れないくらいおもしろくてとがった教職員や学生がたくさんいます。APUの教育環境は、紛れもなく「人・本・旅」の「人」の部分を担っているのです。
こうした「人」のユニークさや多様性に関しては、今後もっと積極的に発信して世の中に伝えていきたいと思っています。きっと「APUっておもしろいところだな」と、より感じてもらえるはずですから。
(構成/田中裕子)
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