(撮影:竹井俊晴)

「手持ちのカード」の強みはなにかを考える

 ことさらに暑かった2018年の夏。山頂に位置する立命館アジア太平洋大学(APU)のキャンパスも、その難を逃れることはできず、緑豊かなキャンパスからは蝉の声が鳴り響いていました。

 そんな真夏の7月16日。ちょうど海の日にあたるこの日に、学長直轄プロジェクトの一つとして「APU起業部」が発足しました。

 学長に就任して半年強、しかも「出口塾」という呼び名まで付いている。「なぜ真っ先にこの部を立ち上げたのか」と不思議に思った人もいるでしょう。

 もちろん、僕に起業の経験があったからという理由ではありません。起業部の発足は、APUならではの強みを探る中で行き着いた「必然の解」だったのです。

 一体、どういうことか。今日はAPUの強み、そして起業部についてお話ししたいと思います。

 学長に就任して数ヶ月間、大学のさまざまな仕組みや業務を学ぶのと並行して、僕は「APUが他の大学より優れているところは何か?」を考え続けていました。

 麻雀やポーカーでも、はじめから国士無双やロイヤルストレートフラッシュだけを狙っていたのでは何もできないでしょう。大切なのは、配られた手持ちの牌やカードにどんなものがあるかをよく知り、どんな手ができそうかを考えること。戦略とは、手持ちのカードを知り尽くしたうえで、初めて考えることができるものなのです。

 比較対象には、せっかくですから「日本一」の東京大学を置きました。東大と比べれば、たしかにAPUは偏差値では劣っています。歴史も短いし、知名度も低い。しかし、あらゆる要素を比較する中で、僕はAPUの圧倒的な強みを2つ発見しました。

 1つ目は、少し意外かもしれませんが「グローバルな同窓会組織の強さ」です。卒業生の愛校心の強さと言い換えてもいいでしょう。

 本連載でもこれまで話してきましたが、APUは非常にユニークな大学です。キャンパスは別府の山の上にあり、お世辞にも恵まれた立地とは言えません。

 しかし、日本では最もグローバルな教育環境で、ただ偏差値やレベルが合っていたという理由だけで志望した学生はほとんどいません。もちろん、「とりあえず大学は都会を出たい」という学生も。

 だからこそ、APUの学生は愛校心が非常に強い。辺鄙な場所にある、しかも有名大学と比べると知名度はさほどない大学を自分の意志で選んだ自負がある。ここでしか経験できない学びを得てきたという誇りもある。

 それは卒業後も薄れることはなく、むしろ深まるばかりで、別府を「第二の故郷」と呼ぶようになります。

 結果、同窓会組織のつながりが強固なものになっているのです。具体例で言えば、この夏には国連で働くフィリピン人の卒業生が長期休暇を使ってまっ先にAPUに舞い戻り、後輩たちの面倒を見てくれました。せっかくの休暇に故郷に帰る前に母校でボランティアする人が、ほかの大学にどれほどいるでしょうか。

 また、APUがこの18年間で輩出した卒業生は1万6000人にのぼります。決して多い数ではありませんが、ポイントは、そのおよそ半分が国際学生ということ。APUの同窓会は既に世界25の地域に支部があり、そのつながりの広さと深さは「日本一」です。

 なぜそう断言できるのか。例えば日本で最も強い同窓会組織はおそらく慶應の三田会で、上海やバンコクには100人規模の支部があります。しかし実は、この100人はほとんどが駐在員。一時的に住んでいる人ばかりです。

 一方、APUも世界各地に100人規模の同窓会がありますが、ここに集まるのは母国に戻った卒業生ばかり。そこで働き、一生を過ごす人ばかりです。どちらがグローバルで強固なつながりをつくれるかは明らかでしょう。

 それに、APUの1期生はまだ35歳前後ですが、既にポリネシアのトンガで大臣を務めている卒業生がいたり、インドネシアで州の副知事を務めている卒業生がいたり……。まだまだ若い彼ら彼女らですから、これからどんどんグローバルなフィールドで存在感を示していくのは間違いありません。

 いかがでしょう。東大と比べてもグローバルな同窓会組織や卒業生の存在が「圧倒的に強い」と言える理由が分かっていただけたでしょうか。