「決め方」を決める難しさ
「どういうところから、どういう人を、どのように募集するか」。
いざ学長選びの議論が始まったものの、いかんせん、みんな初めてのこと。すべての問いに対してノーアイデア。皆目、見当もつきませんでした。
学園内で大騒ぎして、粘りに粘って、タンカを切って(笑)スタートした取り組みです。「なんだ、これならいままで通りでよかったじゃないか」とは思われたくはありません。
けれども当然、不安もあります。選び方は分からないのに、明確なタイムリミットはある。たとえこちらが「この人だ!」と思っても、「あんな田舎の山の上の大学はイヤだ」と断られる可能性だって、大いにあるわけですから。
不安を抱えながらも議論を重ねる中で、次第に「公募」という選択肢が浮かび上がってきました。これなら「学内」「学園内」「国内」と線引きすることなく、広く候補者を集められる、と。
米国など海外の大学では、学長公募が一般的ですから、この段階で外資系のサーチファームにも入ってもらい、議論を進めました。
立候補の条件は何か。他薦は認めるのか。その場合、推薦人にはどのような資格を求めるのか――。
その結果、どうせやるならと「推薦人については資格不問」、完全フリーにすることに決定。つまり別府の温泉の番台に座っているおばちゃんも推薦人になれるわけです(笑)。
だからこそ、公募基準を整えることが重要でした。「基準さえ満たしていれば」、誰を推薦してもいいし自分が立候補してもいい、ということですから。
この公募基準に関しては、かなり丁寧に議論を交わしました。委員会だけでなく、教員や職員、学生にも意見を求めました。具体的な人物に対する意見は反映できないからこそ、基準だけはみんなの意見を反映させたいと考えてのことです。いわば、「基準の民主主義」ですね。
最終的に私たちがまとめた公募要項、中でも重要なのは、「役割」と「資質」です。
役割は6つありますが、教職員や学生など大学のステークホルダーに対する発信力、学生募集へのリーダーシップ、ネットワーク強化、財政運営への責任などを掲げているところが、日本の大学としてユニークなところではないでしょうか。
資質は5つあります。出口さんがよく話題にされているのは、次の2つです。
【1】博士学位およびそれと同等程度の学術的実績、経験を有すること
【2】英語および日本語の高度な運用能力を有することが望ましい
そのほかにも、大学や組織での運営経験、APUへの理解、異文化や多様性への深い理解が必要な環境で働いた経験などを挙げているところが、APUらしいといえるかもしれません。
「同等」「望ましい」。長々と議論した割に、いずれも曖昧な表現だと思われるかもしれません。もちろん議論の中では「学歴や英語力は必須である」という意見もありました。
でも、いろいろな角度から議論を重ねる中で、余白はあった方がいいということになったんです。例えば「スティーブ・ジョブズが来てくれるといったら?」「オノ・ヨーコだったら?」など、委員会でもいろいろボールを投げました。
博士号を持っていなくても、日本語が話せなくても、是が非でも来てほしい、APUにふさわしい人がいるかもしれない、と。
具体的に魅力ある人物を思い描くほど、あまり厳格な基準にできなかったんです。私たちが目指しているのは、超一流の学者にこだわるのではなく、APUをよりすばらしい大学に導いてくれる学長に来てもらうことですから。
Powered by リゾーム?