経営者の大切な仕事の一つは「決断・実行すること」です。しかし、さまざまな案件が持ち込まれる立場ですから、「決断は早く」と考えがちです。そのため決断を巡って、プレッシャーにさらされることも多くあるかと思います。

 例えば、自社が企業買収の案件を抱えていたとしましょう。周囲は「ここで決断をしてもらわないと、ライバル会社が名乗り出ます」と素早い意思決定を求めてくるでしょう。案件を仲介する投資銀行は、「この価格で決めてもらわないと、次が待っている」と言うかもしれません。多くの圧力に左右される中で大事にしたいのは、自身が納得しているのかどうか。それが大切な基準になります。

 周囲や外部の声も多くあるけれど、自身が納得できるだけの判断材料は十分にあるのか。そして、やはり時間をかけないと決められない場合は、できるだけ必要な情報を集めてギリギリまで考え抜くに限ります。慌てると間違う場合もあるからです。

 「日本企業は決断が遅い」「討議しコンセンサスを得るのに時間がかかり過ぎる」など、批判にさらされることが多くあります。しかし決断をしないことと、ギリギリまで熟考することは違います。

格好良さは追い求める必要はない

 即決をすると、一見、トップとして魅力的に映るかもしれません。しかし、私はその格好良さは追い求める必要はないと思います。

 「即断する力」。リーダーシップというとこんな言葉がよく叫ばれます。書店にもそんなタイトルの経営論は多いでしょう。それらを唱える方の多くは、実は経営リーダーというよりコンサルタントや学者の方々だという印象があります。つまり現役の経営者ではないのです。

 日々の経営はむしろ地道な作業の集積です。時に周囲に気を配り、できるだけ情報を集める。時に誤りがないか丁寧に書類を見直す。そうした中から、全体像を形作り、大きな決断に徐々に近づきます。決して、猪突(ちょとつ)猛進ではないのです。

 勇ましさを見せた方が周囲にはリーダーらしく映るかも知れません。人気も高まるでしょう。しかし経営者の評価は印象や人気ではなく、しっかりとした実績や結果からなされるべきものです。

宮内義彦(みやうち・よしひこ)氏
オリックス シニア・チェアマン。1960年日綿實業(現 双日)入社。64年オリエント・リース(現 オリックス)入社。70年取締役、80年代表取締役社長・グループCEO 、2000年代表取締役会長・グループCEO 、03年取締役兼代表執行役会長・グループCEO、14年シニア・チェアマン(現任)。著書に『私の経営論』『私の中小企業論』(日経BP社)など。

 実際は大きな決断こそ迷うべきで、十分に自分自身が納得することが欠かせません。私自身も、小さな課題については即決できます。仮にゴーサインを出して、後で間違ったと気づいたとしても、小さい案件であれば損失は限定的です。「会社がおかしくなる可能性などない」という案件は割合と気楽に決められます。

 熟考するのは、大きな問題についてです。会社の将来を方向づけることや新規分野に大きな投資をするなどの大きな議題について、即断即決することが格好良いとは思いません。決断に至るまでには、資料を集め、よく考え、社内の幹部らや社外の方などの意見をよく聞くことは基本です。