これには当時の欧米で台頭した「黄禍論」、すなわち日本をはじめとするアジア排斥、黄色人種差別の気運が関係している。

 日露戦争(1904~1905年)において当時ヨーロッパの一員と見做されていたロシアにアジアの小国日本が勝利した頃から、この考えは一気に西洋社会に伝播した。1900年に出版された新渡戸稲造『武士道』とともに天心の『東洋の理想』は、黄禍論に対する反論としてアジアを奮い立たせるメッセ―ジを持っている。

 天心が1905年に書いた別の論文では、黄禍論に対抗する「White Disaster(白禍)」という言葉が使われた。この頃に天心が唱えた反西洋支配の考えは、次のような逸話にも表現されている。

 40歳を過ぎた天心が、ボストン美術館からの招聘で横山大観らと共にボストンの街を歩いていたときのこと。羽織袴というスタイルで歩く一行を冷やかした現地人にこう言われた。

 What sort of ‘nese are your people ?  Are you Chinese, or Japanese, or Javanese ?(あんたたちは何ニーズだ?チャイニーズか、ジャパニーズかそれともジャワ人か?)

 それに対して天心は流暢な英語でこう返したとされる。

 We are Japanese gentlemen. But what kind of ‘key are you ? Are you a Yankee, or a donkey, or a monkey ?(私達は日本の紳士である。貴方こそ何キーなのだ? ヤンキーか? ドンキー[ロバ、まぬけ]か? それともモンキーか?)

 天心が本当にこの通りの受け返しをしたのかは定かではないが、当時の黄禍論に対抗するアジアの誇りとして「Asia is one」を記した天心の姿勢を表現したものとしては秀逸なエピソードだ。

 そして、この「対西洋」のメッセージは、のちに政治利用されてしまう。

 天心の「Asia is one」は文化や芸術を主眼に置いたものだったのだが、これが「大東亜共栄圏」構想のスローガンに使われた。1913年に死去している岡倉天心が、30年近く経った後、欧米による植民地支配からアジアを解放する旗手として担がれ、戦争を肯定するシンボルとされてしまったのだ。

経済連携の本質は「共通の敵」ありきか

 天才漫画家、手塚治虫が描いた作品の1つに『W3(ワンダースリー)』というものがある。無益な戦争を繰り返す地球の人類を見て、宇宙の秩序を管理する「銀河連盟」が地球を存続させるか、あるいは反陽子爆弾を使って消滅させるか判断しにやってくるという社会派なテーマのSFマンガだ。

 作品の中で、宇宙人が地球に反陽子爆弾を埋め込んだと知った地球の国々は、紛争を捨てて世界的な協力体制を築くようになる。