2018年7月に日EUの経済連携協定(EPA)が署名されたほか、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(TPP11)も2019年初頭に発効する公算が大きくなっている。日本企業はこうした競争環境の激変にどう備え、どう使いこなすべきか。経済同友会の代表幹事を務める三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長に聞いた。

経済同友会の代表幹事を務める三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長(写真:古立康三、ほかも同じ)

稼げるFTA大全』では、自由貿易協定(FTA)やEPAを活用することが、日本企業にとっていかに有益なことかをまとめています。けれど、FTAやEPAが実際の経営にどんな影響を及ぼすのか、理解できている日本の経営者は少ないように感じます。

小林会長(以下、小林):まだ影響を定量的につかめていないし、FTAによってどのくらい関税が下がるかというインパクトは、業界によって異なります。

 EU(欧州連合)とのEPAで言えば、韓国は7年前に日本に先駆けて発効しています。その結果、自動車に10%、エレクトロニクスに14%、関税がかかっている日本と、多くの品目で無税になった韓国との差は、年々大きくなっていますよね。日本企業はいまだに、関税という大きなハンディキャップを負って戦っている。EUと日本のEPAが発効されれば、自動車やエレクトロニクスなどの業界にとっては、大きなメリットが期待できるはずです。

 一方で、ケミカル(化学)とか素材の業界は、FTAの影響が意外に把握しづらい。既に国境をまたいでモノが激しく行ったり来たりしていて、EUから輸入するケースもたくさんありますから。さらに化学と言っても、例えば機能化学品だと大きなメリットもデメリットもない可能性もある。

 まだ動きだしていないから、定量的に経営にどうはね返るか、という議論までなかなかできていない、というのが事実かもしれませんね。

 ケミカル業界にとっては、EPAの適用を受けるために必要になる「原産地証明」は、それほど複雑ではありません。大きなプラントが1つあって、どこで製造したかというのははっきりしていますから。

 これが自動車やエレクトロニクスなどのように、国境をまたいでサプライチェーンが構築される製品だと、また事情が異なるのでしょうね。