土壇場で交渉をぶち壊す米国

――通商交渉といっても、やはり人間同士の腹のくくり方が問われるわけですね。

甘利:そういう場面が、結構ありますよ。

 通商交渉は面白くて、例えば世界貿易機関(WTO)だと、100何十カ国もが集まりますから、交渉がまとまるわけはありません。とにかく100何十カ国集まるけど「ここじゃあ決まらないから」と、「グリーンルーム会合」といって30カ国ぐらいに絞ってまずは交渉を進めていきます。

 このグリーンルーム会合を2日間やったけれど、各国が延々と演説をして、まとまらないことがありました。どの国も好き勝手なことを言うわけですから、なかなか難しい。それで、(WTOの元事務局長の)パスカル・ラミーは、交渉相手を数カ国に絞り込みました。

 日本はちゃんとその中に入ったのだけれど、それでもまだまだまとまらない。ある時、EU(欧州連合)とブラジルが大げんかを始めて、EUの担当大臣が「こんな会議なんて付き合っていられるか」と会合から出ていきました。

 険悪な空気の中、私が「悪いけど、私も外に出ていいですか」と言ったら、みんなが「日本まで蹴るのか。もうこれで終わりだな」と非難をしてくる。そこで私は、「いや、廊下にコーヒーを取りに行くんだけど」って答えたら、どっと笑いが生まれたんです。

 それで時間をつぶして帰ってきたら、EUの担当大臣も戻ってきて、何事もなかったように和気あいあいと交渉が進んでいく。

甘利議員の機転によって、かなり場の雰囲気が改善したのでしょうね。

甘利:その後の交渉も、本当にいいところまでいきました。ところが、アメリカの業界団体が押しかけてきて、全部をぶち壊すわけ。

 米国代表が無理難題をインドに言って、がたがたと揉めている間、我々はただただ待たされる。そうしたら中国の商務大臣が「甘利、次の会合は何時からだから、それまではホテルに帰っていて大丈夫だぞ」と教えてくれるわけです。

 中国はWTOに入る時に、ちゃんと次席ポストを確保していて部屋がある。その次席が、ラミーと話しているから中国には情報が入ってくるわけです。一方で日本は事務方がいないから情報が入ってこない。

 中国の商務大臣は親切で言ってくれているから、それはありがたいことでした。だけど日本の方がずっと前からWTOに入っているのに、この扱いの差はどうかと思いましたね。中国はこの間加盟したばかりじゃないか、と。

 なぜ日本が中国の商務大臣に教わらなくちゃいけないんだと頭に来たから、ラミーに対して、「どうして日本は何も状況を知らされないんだ。こんなあほらしい会議だったら、私はもう帰る」と訴えました。

 そしたらラミーが「日本には情報を渡すから勘弁してくれ」と止める。それからは続々と情報が入るようになりました。ラミーの秘書が飛んできて、「今はこうなっています、ああなっています」と説明してくれるわけです。

交渉力によって日本に入る情報が変わった。

甘利:私は場の空気が読めるんです。このWTOの交渉は合意に近いところまでいきました。けれど結局、もう一息というところで、業界団体に押し切られた米国がハードルを上げて、その条件にインドがギブアップをして合意に至りませんでした。それ以来、WTOが機能しなくなったのです。