もう一度、人によるマネジメントを見直そう

 いまでは考えられないかもしれませんが、『シェア』が出版されたあと、講演会や出演した番組でよく批判されました。「日本人は人のものなんか、使いたくない。シェアリングサービスなんか、流行るわけがない」「モノが売れなくなるような思想を植え付けるな」というのが典型的な反論でした。でもサービスが始まってみたら、けっこうみんな当たり前のようにシェアリングサービスを使っています。

 それは信頼の壁を乗り越えたというよりは、コストの問題だと僕は考えています。カーシェアリングであれば、A地点からB地点に行くという目的が果たせるなら、人の車だって別にかまわない。釘を打つためにトンカチを借りるときに、「人のトンカチを使うのは嫌だな」と思いますか? トンカチの機能を果たしてくれたら、お古だろうが気にならないですよね。気になるのは、自分にとって価値のあるものだけです。

 また、世界中の大都市圏ではライフコストがどんどん上がっているので、それを少しでも下げられるならシェアを歓迎する、ということだと思います。

 ただ、コストが下がるならすぐにシェアリングサービスを信用し、利用してしまうというのはハイリスクです。「あまりにも速く信頼しすぎる」ということについては、ボッツマンも注意を促しています。

 皮肉にも、今のわたしたちが抱えている問題のひとつは、あまりにも速く簡単に信頼しすぎるということだ。それは、ウーバーのようなライドシェアのプラットフォームに限らない。それはスピードへの信頼だ。信頼が加速モードに入ると、人は衝動的になる。意識してギアチェンジをしなければ、ゆっくりと慎重に考え直すことはできない。(『TRUST』第4章)

 シェアリングサービスを利用している人は、評価する時もオートマティックに判断しています。なぜかというと、シェアリングサービスは、ユーザーエクスペリエンスが似ているからです。利用後に、星の数でお互いに評価する。自分に悪い評価をつけられたくないし、相手の気分を害したくないから、相手に高い評価をつけます。ご丁寧に、最高評価をつけるテンプレートも用意されています。そうすると、お礼の応酬になりますよね。そしてみんな、早く取引を終わらせたいと思っている。それでよく考えずに、高評価をつけてしまいがちです。

 僕は以前から、シェアリングサービスの信頼を担保する仕組みがレーティングしかないことに、疑問を抱いています。

 システム化によって問題が解決できない場合、そこにはやはり人が必要ではないでしょうか。地域やグループを統括する、リージョンマネージャーのような役割の人がいたらいいと思います。

 たとえば、イスラエルで開発され、世界で使われているWaze(ウェイズ)という渋滞情報をコミュニティでシェアするカーナビアプリがあります。このサービスにはリージョンマネージャーがいて、担当地域については「これは正しい」「これは間違い」と情報を管理しています。

 他の例としては、サンフランシスコ発のベンチャーで、自分の家で作ったご飯を販売できるGobble(ゴブル)があります。現在ビジネスモデルを修正しましたが、初期には創業者が味見をして判断していました。カウチサーフィンにしても初期は創業者の知り合いかどうかがひとつの判断基準でした。しかし、規模が大きくなるにつれ、いちいち創業者が会うわけにはいかないでしょうから、新たに人的なプルーフィングの仕組みを考えたらいいと思います。

 なぜなら、規模の追求が得意なIT業界において、サービスそのものの質を担保するといったマイクロマネジメントは、どうしても置き去りにされがちだからです。すでにシリコンバレーの企業で人事評価にAIを導入しているベンチャーもあります。「信頼担保」の鍵は、AIと人が半分ずつスクリーニングするような形態にあるのではないでしょうか。

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