中国の巨大eコマース企業アリババは、ビジネスのあり方を一変させた。一夜にして超大金持ちとなったアリババの創業者で会長のジャック・マーの物語は、無一文から身を起こした起業家の成功談にとどまらない。それは、信頼構築という驚くべき物語だ。アリババは「信頼」を攻略したことで、大きな成功を収めた。ジャック・マーは「信頼の飛躍」という偉業を成し遂げたのだ。

 『TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか』(日経BP社刊)から一部を抜粋し、アリババの成功を導いた信頼攻略のカギが何だったのかを解説しよう。

アリババ創業者のジャック・マー氏はいかに「信頼」をつかんだのか(写真:つのだよしお/アフロ)

信頼の伝統を打ち破る

 双方が信頼しなければ成り立たないネットのマーケットプレイスをうまく構築するのは大変な挑戦ですが、アリババの創業者ジャック・マーがさらに非凡なのは、それを中国で成し遂げたという点にあります。

 中国は伝統的に「コネ」に基づく社会です。「人脈」と言ってもいいでしょう。商売においても私生活においても、信頼が存在するのは、家族や友人や同じ村の人といった親密な人間関係のなかだけです。つまりそれは、長いあいだよく知っている人たちであって、インターネットでつながった遠い地球のどこかにいるまったくの他人ではありません。個人的な人脈の外の人間を信用しないのが当たり前なのです。

 中国のビジネスでは、付き合いのはじめにたっぷりと社交に時間をかけて相手をよく知るのが重要となります。「欧米人は家族や友人を心で信頼し(愛情に基づく信頼)、ビジネスの相手を頭で信頼する(認知に基づく信頼)」と言うのは、コロンビア・ビジネススクールでソーシャルネットワークを研究するポール・イングラム教授です。

 「しかし中国では、商売の世界も愛情に基づく信頼と認知に基づく信頼が固く絡まり合っている」

 とりわけ中国の人たちは、最初に長い時間をかけて自分が信頼に値する人間だと証明した人だけを信頼します。それこそ、ジャック・マーが乗り越えなければならない壁でした。彼が打ち破ろうとしたのは、岩のように固い信頼の伝統だったのです。