TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか

 フェイクニュースに改ざん問題、企業不正と、今ほど体制・企業・マスコミへの不信感が強い時代はない。一方で、他人の口コミを信用して宿泊先やレストランを選び、知らない人が運転する車を頻繁に利用するのはなぜだろうか?

 ソーシャルイノベーターのレイチェル・ボッツマンは、新作の著書『TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか』(日経BP社刊)のなかで、テクノロジーが「信頼」の形を変えたと指摘する。『TRUST』から一部を抜粋し、新しい「信頼」がビジネスやエコノミーにどのような影響を与えているかを見ていこう。

制度への信頼の崩壊

 今の制度は、エアビーアンドビーやエッツィーやアリババ(阿里巴巴)のようなプラットフォームで人々が直接に取引を行う時代に適していません。労働者の半数が「独立した働き手」になる時代には合わないのです。今後10年で、労働者の半数がフリーランスや請負人や一時雇いになると言われています。新しい形の独占やプラットフォーム資本主義を代表するフェイスブックやグーグルのようなテクノロジーの有力企業に多くの人が依存する時代に、今の制度は無理があります。銀行口座からデートまで、指一本ですべてが管理できる文化にも合いません。

 制度への信頼の喪失は、制度そのものへの信頼の崩壊につながります。制度に裏切られたら、何を信じたらいいのか、ほかにどんな悪いことが起きるのだろうか、といった恐れと疑念と幻滅が急速に広がっていきます。最初に信頼を失ったのは金融機関でしたが、そこでとどまらず、不信の波は政府やマスコミ、大企業にまで押し寄せているのです。

 さらにこの危機は、人工知能(AI)、自動化、もののインターネット(IoT)といったテクノロジーが急速に進化を遂げる時代に起きています。日常生活のなかで、わたしたちはすでに人間よりもアルゴリズムに信頼を置くようになっています。何を読むべきかをアマゾンに、何を見たらいいかをネットフリックスに教えてもらっています。これはまだはじまりにすぎないでしょう。

新しい信頼がシェアリングエコノミーを拡大させた

 わたしたちは、信頼の喪失を悲しんだほうがいいのでしょうか?

 答えはイエスでありノーでもあります。マスコミがなんと言おうと、今は不信の時代ではありません。社会をひとつにまとめる接着剤とも言える信頼は、消えうせていません。その対象が変わっただけなのです。この転換の影響は莫大で、ベビーシッター選びから会社経営まですべてに及んでいます。信頼が変わっても、以前の形態が完全になくなるわけではありません。新しい形態がより支配的になるだけです。

 かつて信頼は下から上へと流れていました。審判や規制当局へ、権威者や専門家へ、監視機関やお目付け役へと。それが今、信頼は横に向かって水平に流れています。それが「分散された信頼」です。人間に頼ることもあれば、プログラムやボットに頼ることもあります。信頼の方向が変わっているのです。かつて力や専門性や権威の源泉とされたものはもう万能でないばかりか、影響力を失っています。良くも悪くも、このことの深刻さを軽く見てはいけないでしょう。

 シェアリングエコノミー(共有経済)の爆発的な拡大は、まさにこの「分散された信頼」の生きた事例です。また、闇サイトの急速な発展も「分散された信頼」の一形態だと思えば、理解しやすいでしょう。消費者は「信頼できない」はずの売人から買い付けるドラッグから自動小銃まで、何にでもレーティングをします。闇サイトと、新時代のデジタル技術が可能にする親密な人間関係とは何の共通点もないように思うかもしれませんが、そのふたつは同じ原則のもとに成り立っているのです。つまり、テクノロジーを通して人が人を信頼するということです。