日本企業の未来を変え得る3つの提言

 では、具体的にどんな動きが変化の道筋を作るのか。最後にこの点について、吉川とシバタで議論した3つの内容を記していきます。

 1つ目の提言として、今、非IT産業の大企業で要職に就いている経営層の方々にはぜひ「意思決定の一部を若手に委ねる」という経営判断を下していただきたい。若い世代のほうが相対的にソフトウェアの持つ影響力を理解しているというだけでなく、シンプルに生命力が高いからです。

 高い生命力を持った若手に、100ある経営課題のうち20~30くらいを一任し、イノベーションを起こす種を育ててもらう。中には失敗もあるでしょうが、彼ら・彼女らはリスク耐性があって無理が利くので、いずれ大きな変革を成し遂げるかもしれません。

 スタートアップの世界でも、成功するにはできるだけ多くの"打席"に立つこと、つまり多くの経営体験を積むことが大切だと言われます。若手が"打席"に立つ機会をたくさん得るための仕組みづくりは、経営陣の意思決定がなければできません。ですから経営層の方々には、ぜひこの仕組みづくりから始めてほしいと思うのです。

 2つ目の提言は、若手だけでなく海外人材の採用と登用にも積極的になってほしいということです。プロ・スポーツの世界にたとえると、この提言の意味がよく分かると思います。

 プロ野球やJリーグのチームでは、弱点を補強する目的で助っ人外国人を雇う一方、チームのプレースタイルそのものを進化させるため世界最高峰の経験を持つ外国人選手を招き入れることがあります。これと同じように、現在の日本企業は、広がりを見せるソフトウェア経済圏の動向を把握した上で「どんなレギュラーが必要か?」を考え直さなければならない時期に差し掛かっている。

 テクノロジーへの理解があり、シリコンバレーや中国で事業運営の経験もあるような海外人材を増やせれば、それだけ業務提携やマーケット開拓の糸口が増えることにもなります。

 最後の3つ目は、若い世代の方々に対するお願いです。この連載を読んで、少しでも刺激を受けたという方には、ぜひとも自分たちが歴史を作り直すんだという意識で「個の力」を鍛えてほしい。

 かつての日本が世界に誇れる技術立国になれたのは、ソニーやホンダ、トヨタ自動車といった企業をグローバル企業に育てた偉人がいたからです。若い世代の方々には、こうした先達の築いた歴史に乗っかるだけでなく、自分たちの手でソフトウェア経済圏をサバイブする事業を作り上げてほしいと思います。

 その際、シリコンバレーや中国の企業と勝った負けたの勝負を繰り広げるのではなく、「共に生きる道」を考えるという選択肢もあるでしょう。国際通貨基金が発表した2018年のGDPランキングを見ると、1位は米国で20兆5100億ドル(約2051兆円)、2位は中国で13兆4600億ドル(約1346兆円)、3位は日本で5兆700億ドル(約507兆円)となっています。見方を変えると、日本は右隣に長年GDP世界一の国(米国)があり、左隣に2位に躍進した国(中国)があるわけです。

 本連載のタイトルである「地政学」として考えると、この2つの隣国とうまく折り合いを付けながら生きていくのは、東南アジアやアフリカの新興国と付き合っていくよりも地の利が得られそうだと言えます。

 仮にこの選択肢を選んだ場合、誰とどのように握手をして生きていくかを考えねばなりません。その意味でも、まずは各国・各社の動向や、進んでいる方向性を知ることが第一歩になるでしょう。

 この連載が、日本人として、あるいは日本企業の代表として、危機感を持ちながら世界のテクノロジーの最先端に触れるきっかけになれたなら幸いです。

本連載『テクノロジーの地政学』が書籍になりました!

本連載の内容をまとめた書籍『テクノロジーの地政学 シリコンバレー vs 中国、新時代の覇者たち』が2018年11月22日に発行されます。

6分野(人工知能/次世代モビリティ/ロボット産業/FinTech・仮想通貨/Agri・Food Tech/小売)全12回にわたって紹介してきた連載に加筆・再編集を加え、

■ 各分野「シリコンバレーvs中国」で見開き比較
■ マーケットトレンドは最新データを用いて補足
■ 成長著しい「注目スタートアップ」も網羅

して、産業地図が様変わりしていく様子をまとめています。米中トップ企業が生み出す「ソフトウェア経済圏」を、日本企業が生き残るために必要なものは何なのか? この1冊ですべて分かります。

本内容をもっと詳しく知りたい場合は、以下のリンクをチェック。
テクノロジーの地政学 シリコンバレー vs 中国、新時代の覇者たち