クルマも自販機で売る時代の販路拡大戦略

 中国の大企業の動向を紹介する際、何度も名前が出てくるのがIT御三家と呼ばれるBAT(検索サービス大手のBaidu、EC大手のAlibaba、SNS大手のTencentの3社の頭文字を取った造語)です。小売の世界でも、投資や提携、買収などで影響力を増しているのですが、特にAlibabaとTencentの2社が積極的に動いているようです。

 また、小売プレーヤー以外の大企業も「ニューリテール」と呼ばれる新しい小売の流れに乗って販売戦略を刷新しようとしています。その詳細を見ていきましょう。

シバタ:英ロイターの記事「Alibaba, Tencent rally troops amid $10 billion retail battle」(2018年2月19日)によると、AlibabaとTencentは積極的に小売プレーヤーに投資をしていて、案件の多くが1,000億円レベルに上っているそうです。

 例えばAlibabaは、中国の大手家電量販店Suning(スーニン/蘇寧電器)に$4.6 Billion(約4,600億円)も出資して、戦略的提携を結んでいます。相変わらずスケールが大きいですね。

滝沢:近年のAlibabaは、オフラインで販路を広げることにすごく注力しているんですね。ECがこれだけ普及したとはいえ、中国ではまだ消費全体の中でEC経由の売上が15~20%くらいなんです。そこで、オフラインの小売プレーヤーに出資をして、リアルの「面」を獲ろうとしている。

吉川:2017年12月には、Tmallが上海で自動車を販売する自販機もオープンしましたよね。巨大な立体駐車場のような自販機の前でインターネットから試乗予約を行い、顔認証で鍵を受け取るという仕組みです。試乗中に車が気に入ったら、そのままスマホで決済して購入できるのです。

Tmallの「自動車自販機」の様子は動画でチェックできる

 ちなみに、購入時は第8回の講座「FinTech・仮想通貨:中国編」で紹介したZhima Credit(ジーマ・クレジット/芝麻信用)によってセサミ・クレジットの「信用スコア」がチェックされ、ローンの支払い条件設定などが行われます。極端な話、信用スコアが低いとクルマを買えないし、逆にスコアが高ければさまざまな面で優遇される。

シバタ:クルマは買うと決めてから納車されるまでかなり時間がかかりますし、いろいろな書類を準備するのも手間ですよね? それが自販機で手軽に買えるなら、すごく便利です。

吉川:それだけではなく、Alibabaはこの自販機の販売データから「どんな層のユーザーがどの車種を買っているか?」といった情報も得られるので、自動車メーカーとの交渉にも使える。中国では最近、規制が変わって1ディーラーが複数メーカーの自動車を販売できるようになったので、こうしたデータがとても大事になります。

シバタ:この自販機は新しい購買体験を作り出している好例ですが、他の小売プレーヤーもAlibabaのようにテクノロジーを使って購買体験を改善しているようですね。

吉川:はい。JDも、2018年1月から北京で生鮮スーパーの7 FRESH(セブンフレッシュ)1号店を開業しています。雰囲気は米の高級スーパーWhole Foods Market(ホールフーズマーケット)を意識した印象で、日本でいうとちょっと大きくした成城石井や紀伊國屋みたいな感じでしょうか。これから3~5年で全国1,000以上の店舗を開設していく計画だそうです。

 JDの狙いはスマートテクノロジーをオフラインの買い物と融合することで、例えば買い物客がスマートフォンの画面を商品にかざすと、食品の栄養素に関する情報を確認できるような機能を提供しています。他にも、買い物客の後をロボットが付いてくるコンシェルジュ的なサービスもあるらしいです。ただし、私が見学に行った時は、店員さんが「今ロボットは動いていません」と言っていました。

滝沢:中国の会社は、プレスリリースを出しても実際には動いていないというケースが多いですよね。

吉川:そうですね。とはいえ、顔認証で商品決済ができたり、購入した商品を30分以内に宅配するサービスも提供していたりと、挑戦的な取り組みを行っています。

 他にも印象的なオフライン展開を挙げると、スマートフォンメーカーとして世界的に知られるようになったXiaomi(シャオミ/小米)が自社の家電製品を展示販売する「小米旗艦店」をオープンしています。

 1号店は2017年11月、深センに出店しており、見た目はほとんどAppleストアと同じ。実際にAppleストアなども手掛けたサンフランシスコのクリエイティブ会社、米eight(エイト)が店舗をデザインしたそうです。

シバタ:店舗そのもののデザインにも投資をしているのですね。

吉川:ええ。なぜ家電メーカーの話題を小売の講座で取り上げたのかという理由にもつながるのですが、Xiaomiは今まで築いてきた「Xiaomiエコシステム」の販路として、実店舗展開を非常に重視しています。

 Xiaomiは過去5年で100以上のスタートアップに投資をしており、家電製品のみならずサングラスやペンなど多種多様な製品を自社のエコシステムに取り込んでいます。そのラインアップは、アメリカや日本でも類似するメーカーがないほど豊富です。

 今後はその商品ラインアップをどう売っていくか? という点も大事になるので、実店舗でライフスタイルを提案しながら売っていく戦略を取ろうとしています。先ほど紹介した小米旗艦店も、フロアの2Fはライフスタイルをテーマにした展示を行っており、実店舗も中国で1,000店舗、グローバルで2,000店舗に増やしていくと発表しているんです。

シバタ:規模がすごいですね。

吉川:北京にあるモールの中にも、小米旗艦店より小規模な「smartmi」(スマートミー)というsmartmi社(Xiaomiエコシステムの1つ)の直営店を出していて、Xiaomiグループのスマートなブランドイメージを広めるための店舗デザインになっていました。こういう情報は、日本でほとんど報道されていないと思うので、ぜひ日本の家電メーカーの方々に知ってほしいです。

Xiaomiグループの直営店「smartmi」の様子(撮影は吉川氏)