大手IT企業が仕掛ける「食のサプライチェーン改革」

 中国のマーケット動向を説明する際は、よくIT御三家の「BAT」(検索サービス大手のBaidu、EC大手のAlibaba、SNS大手のTencentの3社の頭文字を取った造語)の名前が出てきます。Agri・FoodTech分野でも、同じくBATの影響力が強いようです。

シバタ:まずは、先ほど話題に上ったEle.meを取り上げましょう。同社はAlibabaに買収される前の2017年、Baiduのデリバリーサービス「Baidu Waimai」(バイドゥ・ワイマイ)を買収しています。一方で、Tencentは「Meituan Waimai」(メイチュワン・ワイマイ)というデリバリーサービスに出資している。やはりBATの名前が出てきますね。

小田:競争が激しいこともあって、最近は「デリバリー料金はほぼ無料」というのが当たり前になりつつあります。6~8元(約100~130円)くらいのデリバリー料を取るのですら、高いハードルになっているんですよ。

 中国のペイメントサービスについては前の講座で取り上げたようですが(FinTech・仮想通貨:中国編)、都市部ではAlibaba GroupのAlipay(アリペイ)とTencentのWeChat Pay(ウィーチャット・ペイ)がかなり普及しているので、現金も使わなくて済む。お金を下ろしにコンビニや銀行に行く必要もないので、家やオフィスから一歩も出なくても食べ物にありつけるわけです。

シバタ:今後の業界展望はどう見られているのですか?

吉川:自動運転技術が本格的に普及するまでは、人間がデリバリーするサービスが続くでしょうね。

小田:でも、Ele.meに買われたBaidu Waimaiは、2016年に資金調達した時には2500億円くらいのバリューだったのに、買収時の価格は800~1000億円程度だったという話もあります。これは、デリバリーサービスの高い営業費用や設備投資などを理由に単体の価値で競争するのが難しくなっており、そこから得るユーザーデータや、築いた販売網を活かしながら競争していく戦略が必要になっていることの表れでしょう。

シバタ:その販売網について、Ele.meは2018年の夏時点で中国2000都市で展開しており、130万軒のレストラン、2億6000万人のユーザーが登録しているそうです。また、デリバリーの登録ドライバー数は300万人近くにおよび、2018年6月には上海の産業密集地域を中心に17の飛行経路について中国政府から飛行承認を受けています。要はドローン配送の許認可も取得していると。すごい勢いです。

吉川:許認可を得たとはいえ、ドローン配送についてはうまくいかなかったらやめることも念頭にあるんじゃないでしょうか。JDなども地方でドローン配送を始めているのですが、実際に現地に行って状況を見聞きすると「安全面を考えるとまだまだ難しいのでは……」と感じることが多々あります。

シバタ:とりあえず許認可は取った、という状況なのかもしれませんね。では次の話題に移りましょう。FoodTechの分野では、IT企業と大手家電メーカーとの連携も進んでいるということですが、具体的にどんな動きがあるのでしょう?

小田:例えばBAT、JD、中国第2位の検索エンジンSogouなどは、家電大手のMidea Group(ミデア・グループ/美的集団)やHaier(ハイアール/海尔)と提携してスマート冷蔵庫を開発しています。冷蔵庫自体の値段は非常に安く、2017年にはHaierが無料で提供するキャンペーンも検討していました。

Haierのスマート冷蔵庫(画像は同社Webページより)

 これが何を示しているかというと、家電メーカーのビジネスモデルが変わり始めているんですね。スマート冷蔵庫を、アメリカで普及しているAmazon EchoやGoogle Homeのような家庭内の「Internet of Things」ハブとして設置して、家庭のデータを取得する。または冷蔵庫から直接ECプラットフォームを通じて野菜やお肉、乳製品などを家に送る。ハードウエアを売る商売から、サービスを提供するビジネスモデルに軸足を移そうとしているのです。

吉川:アマゾンも似たような動きをしていますよね。冷蔵庫のようなハードウエアがサービス化していくには、最終的にデリバリーも必要になるので。こういったスマートホーム構想は、願わくばパナソニックやシャープのような日本の家電メーカーに先取りしてほしかったですが、その前に中国やアマゾンの“IT・メーカー連合”が本格普及させそうな勢いです。

小田:ハードウエアとの連携以外に、中国で最近増えている無人コンビニでも、IT企業の存在感が高まっています。オペレーションを無人にできるだけでなく、スマートフォン経由で決済もできて、SNSやAI(人工知能)を活用することで今までと違った広告宣伝もできる。そのため、AlibabaやJD、Tencentなどが無人コンビニを展開する企業と連携を深めています。

シバタ:中国のテクノロジー企業がこうやって販売網を急拡大させる際の動きは、日本企業やシリコンバレーの企業よりも素早い印象があります。なぜなんでしょう?

小田:とにかく提携のペースが非常に早いんですよね。「どうしてもこの業界に進出したい」、「競合他社が新しいサービスを開始した」、もしくは「こういう情報がほしい」となったら、すぐにパートナー企業を探して商品開発をしてローンチしてしまう。各種の規制が日本やアメリカほど厳しくないというのも理由の一つですが、それ以上にマネジメントスタイルが違うというか、ビジネスを前に進めるペースが早いんです。