競争と規制の先に見えてくる中国FinTechの未来

 講座の最後は、シバタが吉川氏と絵美氏の2人に聞いてみたかった質問を直接ぶつけてみました。その答えから見えてきた、中国マーケットの今後とは?

シバタ:まず伺いたいのは、中国ではなぜモバイル・ペイメントがこれほどの短期間で広まったのか? という点です。

絵美:WeChat PayがAlipayの数年後に出てきて、急速にキャッチアップしたという話が出ましたが、この理由を分析すると、短期間で普及した文化的背景のようなものが見えてくると思います。

 中国には紅包(ホンバオ)という日本の「お年玉」みたいな風習があるのですが、日本と違うのは年1回ではなくいろんな場面でお金を渡し合う点。WeChatは、この風習を視野に入れて、「お友達や家族にWeChat Payで紅包(ホンバオ)を送ろう」みたいな一大キャンペーンをやっていました。

 しかも、このキャンペーンではWeChat Payを使っていないユーザーにもお金を送ることができるようにしていて、それによってバイラル的に広まったという印象があります。こういった取り組みは、文化に根差した形で非常に面白いと思いました。

シバタ:そのWeChat PayとAlipayの競争が非常に熾烈なものになっていますが、今後はどう展開していくと予想していますか? Alipayは、セサミ・クレジットの普及とあいまって勢いを取り戻しているという話もあります。

絵美:そうですね。WeChat Payはメッセンジャーが基盤となっていることもあって、そこからペイメントサービスに入ってもらう障壁が非常に低いのが強みです。ただ、AlipayのようなBtoCやCtoBのコマースが絡んでくるところはそこまで強くない。

 それを知ってか、最近のAlipayは先ほど紹介したZhima CreditやMybankのようなサービスをすごく頑張っているので、甲乙付け難い状態になっています。WeChat Payも、中小企業向けのサービスに入ってこようとはしているのですが、この領域はAlipayが圧倒的に強いので。

シバタ:なるほど。では次の質問を。Alibaba、Tencentを追う第二勢力として、平安保険の勢いが見逃せないという話がありましたが、平安保険は何がすごいのでしょう?

絵美:個人的には、平安グループのテクノロジー部隊がすごいと感じています。前段で平安テクノロジーの話が出ていましたが、他にも直近ではOneConnect(ワンコネクト)という会社をスピンアウトさせて、中小の金融機関向けに金融サービスのバックエンドソリューションを展開しています。中国には中小系の金融機関が何千とあるので、そういうところも攻めているのが素晴らしいと思います。

吉川:また、Ping An Good Doctorの急成長を見ていると、日本企業がよく陥る「PoC(Proof of Concept。実証実験)大好き症候群」とは一線を画していると感じます。彼らには良くも悪くもPoCという概念がほとんどなくて、いきなり1万人とか10万人を対象にサービスを展開するわけです。

 日本でPoCに慣れている人たちからすると、乱暴なやり方に思えるかもしれませんが、たとえクレームが発生してもスピード重視で改善していき、1万台、10万台とデバイスを売っていく。保険とIT、デバイスの連携は、InsurTechの次なる展開になるはずなので、ここで先駆けて経験値を積み上げているという点では、非常に面白い会社だと思います。

シバタ:では最後の質問を。ICOや仮想通貨取引所に対する規制が強まったことで、中国における今後のFinTechマーケットはどうなっていくのでしょう?

吉川:僕の印象だと、関連するテクノロジーについては今もちゃんと精査しているような気がするんですよね。今までは詐欺まがいのビジネスも多かったので政府としても規制せざるを得ないという状況でしょうが、それでもきちんとテクノロジーが追い付いてきたら「仕切り直し」するんじゃないですかね。だから、マーケットを規制しつつ、優秀なテクノロジーを開発するスタートアップには引き続き注目していくのだと思います。

絵美:おっしゃる通り、中国はすごく真剣に技術の最新動向を見ようとしていますね。例えば中国の人民銀行の人たちや、金融機関のトップたちがシリコンバレーのFinTech企業に見学ツアーをしに来たり。Ripple社にも見学にいらっしゃいました。

吉川:中国のFinTechビジネスに関して補足すると、今後、地方都市はどうしていくのか? という問題にも向き合わなければなりません。

 北京や上海、香港、杭州、深センあたりでは、本当に良い関連スタートアップが出てきていて、FinTech系のサービスも普及しています。ただ、地方都市は全然追い付いていない。とはいえ地方の経済も伸びているし、そこには銀行口座を作れないような人もまだまだ多いわけです。この課題を解消するために、地方の人たちは必死に勉強しようとしていますし、地方政府も国の成長スピードに追い付かなければとハングリーです。

 日本と違って、中国の地方には500万人、1000万人と人口がいるので、この課題は日本やアメリカの常識を当てはめても解消できない一方で、もし解消できた時には完全にオリジナルなFinTechビジネスが生まれているかもしれません。そういう見方で今後をウォッチしていくと、面白いかもしれませんね。

シバタ:今日はありがとうございました!