モバイル・ペイメント「二大巨頭」の趨勢は?

 ここからは、通常の講座と同様に、中国におけるFinTech・仮想通貨の全体動向を見ていきます。

 まずはFinTechから。この分野では、中国のIT御三家と呼ばれるBAT(検索サービス大手のBaidu、EC大手のAlibaba、SNS大手のTencent)のうち、AlibabaとTencentが際立った動きを見せています。特にモバイル・ペイメントのサービスで、熾烈な競争を繰り広げているようです。

シバタ:米ベンチャーキャピタル(以下、VC)のKleiner Perkinsが、同社の著名パートナーMary Meekerの名で毎年発表している「Internet Trends Report 2018」には、2017年、中国におけるモバイル・ペイメントの取引額は$16 Trillion(約1,600兆円)を超えたとあります。

 そのうち9割を、Alibaba GroupのAlipayとTencentのWeChat Pay(ウィーチャット・ペイ)が占めているそうです。現地でもやはりこの2社の勢いはすごいですか?

絵美:そうですね。日本では、国内のATMで振込をすると手数料が数百円くらい掛かりますよね? それがAliPayやWeChat Payの場合、個人ユーザー間の送金だと無料ですからね。やはり、コストが下がれば取引額のボリュームがものすごく上がるということでしょう。

AlipayのWebサイトには「Trust=信用」を謳うキャッチコピーが踊る。その理由は?

シバタ:この二大巨頭の競争に目を向けると、2015年には約75%もあったAlipayの市場シェアを、WeChat Payが急速に奪っているという調査結果も出ています。2016年の第3四半期時点で、Alipayが市場シェアの50.42%なのに対して、WeChat Payは38.12%まで迫っている。この勢いは何が起因しているのでしょう?

吉川:WeChat PayはメッセンジャーアプリのWeChatがベースになっているのが強いですよね。普段使っているサービスで、ペイメントもできるというのはやはり便利ですから。

 ただ、AlipayはAlibaba Groupの持つECマーケットと連動しているので、日々の買い物とペイメントがつながっている上、ローンなども展開できる。それぞれが強みを持っているので、今後の主権も行ったり来たりするのではないでしょうか。

シバタ:AlipayとWeChat Payに関しては、モバイル・ペイメントのみならず資産運用や金貸し、保険など他の金融サービスもどんどん提供し始めています。なぜ急速に多角化しているのでしょう?

絵美:自分たちで集めたデータを活用して、他の金融サービスに活かしていく戦略なのだと思います。

 Alipayを運用するAlibabaの金融関連会社Ant Financial(アント・フィナンシャル)は、2年くらい前からこんなことを言い始めているんですね。「ちまたではFinTechという言葉が流行っているけれども、自分たちは『TechFin』会社なんだ」と。FinTechが既存の金融サービスをテクノロジーでより便利にするものならば、自分たちはもともとテクノロジーの会社だから、それを金融の世界に活かしているだけなんだというわけです。

 つまり、自分が集めたデータや、開発を進めている人工知能(以下、AI)を、他の金融会社にも提供しながら金融の世界全体を変えていくという意味です。こうやって新しいキーワードを作り出しながら、自分たちの独自の立ち位置を示しています。

シバタ:なるほど。Ant Financialは2018年5月に$14 Billion(約1兆4,000 億円)もの資金調達を実施しており、世界各国のローカルパートナーとアライアンス締結を結ぶ形で海外展開も積極的に進めています。これらの動きを見ても、やはりスケールが違いますね。中国では、AlipayとWeChat Payを持つTencent以外、FinTechの注目株はあるのでしょうか?

絵美:強いて挙げるなら、JD(京東商城)が頑張っています。同社はもともと「中国のAmazon」的な存在で、最近はJD Pay(ジェーディー・ペイ)を入り口にさまざまな金融サービスを展開しています。

吉川:ここに、保険業から始まっていまや巨大金融グループになりつつある平安(ピンアン)保険なども入ってくると、なお面白くなるでしょうね。

シバタ:その平安保険と、Alibaba、Tencentが共同出資しているZhong An Insuranceをはじめ、2017年には多くのFinTechスタートアップがIPO(株式公開)しています。この流れで、新興勢力が伸びていくことは考えられますか?

吉川:いや、難しいと思います。実際、2017年にIPOしたFinTechスタートアップの多くが、2018年に入って株価を落としていますから。これまで中国でIPOしてきたFinTechスタートアップの多くが、いわゆるPeer to Peer融資のような消費者金融で、貸し倒れが頻発したため国の規制が強まっているんです。

 そういう中で、AlibabaやTencent、JD、平安保険あたりの大手は、「うちは大丈夫、ちゃんとやるから」と言って事業を伸ばしている。だから、当面は新興勢力による下克上も起きないというのが僕の見立てです。