「Software is Eating the World」。

 この言葉が示すように、近年はソフトウェアの進化が製造業や金融業などさまざまな産業に影響を及ぼしています。そこで、具体的に既存産業をどのように侵食しつつあるのか、最新トレンドとその背景を専門外の方々にも分かりやすく解説する目的で始めたのが、オンライン講座「テクノロジーの地政学」です。

 この連載では、全12回の講座内容をダイジェストでご紹介していきます。

 講座を運営するのは、米シリコンバレーで約20年間働いている起業家で、現在はコンサルティングや投資業を行っている吉川欣也と、Webコンテンツプラットフォームnoteの連載「決算が読めるようになるノート」で日米のテクノロジー企業の最新ビジネスモデルを解説しているシバタナオキです。我々2名が、特定の技術分野に精通する有識者をゲストとしてお招きし、シリコンバレーと中国の最新事情を交互に伺っていく形式で講座を行っています。

 今回ご紹介するのは、第7回の講座「FinTech・仮想通貨:シリコンバレー」編。ゲストは、東京海上グループの保険持株会社である東京海上ホールディングスでHead of Digital Innovation(Silicon Valley)の要職に就く楠谷“マックス”勝氏です。

楠谷“マックス”勝氏
大阪府生まれ。神戸の大学を卒業した後、東京海上火災保険株式会社(現・東京海上日動火災保険)に入社。保険サービスのデジタルイノベーションを推進するべく、2016年から東京海上グループで初となるシリコンバレーでのテクノロジー拠点立ち上げに従事。現在は計5名のチームを率いて、デジタルを活用した新しい保険サービスの開発やスタートアップ、プラットフォーマーとのアライアンス構築などを担っている。

“熱狂”は収まるも、いまだに北米はFinTech大国

 オンライン決済やロボ・アドバイザーなど、日本でもさまざまなFinTechビジネスが普及しています。トレンドという観点では、FinTechはもう黎明期を過ぎて普及期に入っていると言えるでしょう。

 そこで今回は、一般的なFinTechビジネスのマーケット動向を押さえつつ、中でも今後の伸びが期待されるInsurTech(保険=InsuranceとTechnologyを掛け合わせた造語で、インシュアテックと読む)の概要を紹介しましょう。

シバタ:今回、ゲストにマックスさんをお招きしたのは、FinTechの中でもこれから大きく効率化が進むと見られているのがInsurTechだからです。

マックス:ありがとうございます。おっしゃる通り、InsurTechは今後さまざまなビジネス領域に広まっていくと思います。新しいビジネスモデルが出てくれば、ほぼ必ず新しい保険サービスが必要とされるからです。

 例えば2017年には、東京海上日動火災保険とクラウドファンディングのCAMPFIREが連携して、「クラウドファンディング保険」というサービスを始めました。

 クラウドファンディングとは、製品やイベントなど、自分のアイデアをインターネット上でプレゼンして、賛同した人から開発資金や運営資金を募るという仕組みです。日本でも一般的になりつつありますが、お金を出して支援する人たちからすると、詐欺や横領目的のファンディングだったら......とか、製品が手元に届く前に出資先が倒産してしまったら......という心配もあると思うんですね。

 こういった不安を保険の仕組みを使って解消するのが「クラウドファンディング保険」です。言い換えれば、保険の力でクラウドファンディングという新しい仕組みが世の中に浸透するのを応援していることになります。

吉川:新しいビジネスモデルの浸透を支援するという意味で、かつては自動車保険などもその役割を担っていたわけですよね? 自動車を普及させるには、事故が起きた際の補償についても整備しなければならないと。

マックス:そうですね。ちなみに自動車保険を日本で初めて始めたのは東京海上なんです。大昔の話ですが。

吉川:時代の変わり目には、必ずと言っていいほど新しい保険サービスが誕生すると。

シバタ:InsurTechの詳細は後ほど改めて伺うとして、ここからはFinTechマーケット全体のトレンドを見てみましょう。

 米CB insightsの「Fintech Trends to Watch in 2018」という調査レポートによると、FinTech関連企業への投資は年々増えていて、2017年には$16.6 Billion(約1兆6600億円)に上っています。

 同レポートにある地域別のベンチャーキャピタル(以下、VC)の投資額を見ると、2017年時点で北米が$7,837 Million(約7837億円)で世界のトップ、次いでアジアが$5,794 Million(約5794億円)、ヨーロッパが$2,676 Million(約2676億円)となっています。

 ただし、アジアは2016年の投資額と比べてマイナス10%に、北米も2015年の投資額と比べてマイナス5%になっており、マーケットが落ち着き始めたと見ることもできます。

吉川:一方で、同レポートにあるFinTech関連のユニコーン(企業の評価額が$1 Billion=約1000億円以上で非上場のベンチャー企業を指す言葉)の数を見ると、2018年3月時点ではグローバルで25社、そのうち16社が北米とあります。

シバタ:ユニコーンの割合から考えると、北米は依然、大きなマーケットということになりますね。中でも注目のユニコーンを挙げるとしたら、どれになりますか?

吉川:オンライン決済の米Stripe(ストライプ)や、仮想通貨取引所の米Coinbase(コインベース)などは日本でも有名ですよね。あまり日本で知られていない企業だと、学生ローンや住宅ローンなどの借り換えサービスを提供しているソーシャルレンディングの米SoFi(ソーファイ)なんかが面白いと思います。ソフトバンクも投資をしていますし。

ソーシャルレンディングの米SoFi(ソーファイ)

マックス:私は吉川さんが名前を挙げてくれたCoinbaseに注目しています。