「Software is Eating the World」。

 この言葉が示すように、近年はソフトウェアの進化が製造業や金融業などさまざまな産業に影響を及ぼしています。そこで、具体的に既存産業をどのように侵食しつつあるのか、最新トレンドとその背景を専門外の方々にも分かりやすく解説する目的で始めたのが、オンライン講座「テクノロジーの地政学」です。

 この連載では、全12回の講座内容をダイジェストでご紹介していきます。

 講座を運営するのは、米シリコンバレーで約20年間働いている起業家で、現在はコンサルティングや投資業を行っている吉川欣也と、Webコンテンツプラットフォームnoteの連載「決算が読めるようになるノート」で日米のテクノロジー企業の最新ビジネスモデルを解説しているシバタナオキです。我々2名が、特定の技術分野に精通する有識者をゲストとしてお招きし、シリコンバレーと中国の最新事情を交互に伺っていく形式で講座を行っています。

 今回ご紹介するのは、第6回の講座「ロボット産業:中国」編。ゲストは、第4回の次世代モビリティ:中国編にも登場してくれた「匠新(ジャンシン)」の創業者CEO、田中年一氏です。

産業用ロボットの普及を支える「中国製造2025」とは

田中年一氏
東京大学工学部・航空宇宙工学科を卒業。Hewlett Packardで大企業向けエンタープライズシステム開発・販売に従事した後、デロイト トーマツに転職。12年間、M&Aアドバイザリーや投資コンサルティング、IPO(株式上場)支援、ベンチャー支援、上場企業監査などに従事。うち2005年~2009年の4年間はデロイトの上海オフィスに駐在し、中国企業の日本でのIPOプロジェクトや日系現地企業の監査、投資コンサルティング業務などを手掛ける。2013年に独立して「匠新(ジャンシン)」を創業。米国公認会計士、中国公認会計士科目合格(会計・税務)。

 2017年9月に国際ロボット連盟(以下、IFR)が発表した「How robots conquer industry worldwide」という資料によると、2017年は産業用ロボットの販売台数で中国が世界の約3分の1を占めたそうです。中国国内のロボット販売数を見ても、2012年からの5年間で約6倍のペースで伸びており、着々とロボット大国の地位を固めつつあります。これは、何がトリガーとなっているのでしょうか。まずはこれらの数字の背景を探ってみました。

シバタ:IFRの調査では、中国、日本、韓国、アメリカ、ドイツの順で産業用ロボットが売れていて、中でも中国での販売台数が加速度的に伸びています。2016年が約9万台だったにもかかわらず、2017年には約14万台と、この1年間だけで非常に伸びている。この勢いは今後も続くのでしょうか?

田中:特に2016~2017年のロボット販売数の伸びは、過去に体験したことのないレベルでした。具体的には、自動車関係やIT関係でのニーズが爆発的に増えているという状況です。

 今後については、2018年7月に中国ロボット産業連盟(CRIA)が「今年の産業用ロボットの販売台数は18万台規模になるだろう」という声明を出しています。2017年の推定だと、だいたい16万台くらいと見られていたので、予想を上回る伸び方をしている格好です。

シバタ:中国国内のロボットサプライヤーも伸びているようですね。中国のロボット産業は今、どんな力関係になっているのですか?

田中:海外メーカーが全体の7~8割くらいを占めていて、国産メーカーが2~3割という形です。主要な海外メーカーをピックアップすると、

・FANUC(ファナック/日本)
・ABB(エービービー/スイス)
・KUKA(クーカ/ドイツ)
・YASKAWA(安川電機/日本)

 が「四大家族」と呼ばれており、この4社に続くのがエプソンや川崎重工、OTCダイヘン、デンマークのUNIVERSAL ROBOTSなどです。

吉川:ただ、四大家族の一つであるKUKAは、2016年に中国の家電メーカー大手である美的集団(Midea Group)に買収されましたよね?

田中:はい、そうです。

吉川:この辺にも、中国の勢いが見て取れますね。

田中:ええ。その中国で有名な国産メーカーとして、

・瀋陽新松(SIASUN Robot & Automation)
・広州数控(GSK)
・安徽埃夫特 (EFORT)
・南京埃斯頓(ESTUN)

 などがあります。また、ロボティクス分野で注目を集める協働ロボット(人間と協働して作業を行うロボットのこと)の開発で最近奮闘しているのが、

・AUBO Robotics

 です。けっこう大きな投資をもらって急成長していますね。

 加えて「隠れた生産メーカー」を挙げると、家電やIT関係のOEM(他社ブランドの名で製品・ソリューションを提供すること)メーカーとして知られるFoxconn(フォックスコン)グループは、自社で年間1万台近くのロボットを製造していると言われています。今のところ外販はしていませんが、もし外販を始めたら勢力図を書き換えるポテンシャルがあると言われています。

シバタ:産業用ロボットが普及し出した背景には、他の産業と同様に、国策があるようですね。2015年5月に中国政府(国務院)が発表した「中国製造2025」(メイド・イン・チャイナ2025)が有名です。

田中:はい。中国では、前年の2014年が「中国ロボット発展元年」とされており、国産ロボットの製造・販売が急増し始めたのもこの頃からです。

 そして2015年に「中国製造2025」が発表されました。これは3つの段階を経て製造業を世界のトップにする計画の一つで、第1段階は2025年までに製造強国入りを果たすこと、第2段階は2035年までに中国の製造業のレベルを世界の中位に位置させること、最後の第3段階が(中華人民共和国建国100周年の)2049年までに世界トップになるというものです。

 この計画の最初の関門を、中国共産党が100周年(2021年)を迎える直後の2025年までにクリアするというのが当面の目標。具体的な計画として、2016年には「ロボット産業発展」の5カ年計画が発表されました。それでロボットによる自動化が一気に注目されるようになり、2016年から爆発的に伸びているというわけです。

 中国では今後、「一人っ子政策」による少子化問題が出てくるはずで、労働人口が減っていく一方、工場で働く人たちの人件費は年々高まっています。だからロボットによる自動化が必要不可欠になる。こういう事情があるのも、「ロボット産業発展」5カ年計画を打ち出した理由だと思われます。