「Software is Eating the World」。

 この言葉が示すように、近年はソフトウェアの進化が製造業や金融業などさまざまな産業に影響を及ぼしています。そこで、具体的に既存産業をどのように侵食しつつあるのか、最新トレンドとその背景を専門外の方々にも分かりやすく解説する目的で始めたのが、オンライン講座「テクノロジーの地政学」です。

 この連載では、全12回の講座内容をダイジェストでご紹介していきます。

 講座を運営するのは、米シリコンバレーで約20年間働いている起業家で、現在はコンサルティングや投資業を行っている吉川欣也と、Webコンテンツプラットフォームnoteの連載「決算が読めるようになるノート」で日米のテクノロジー企業の最新ビジネスモデルを解説しているシバタナオキです。我々2名が、特定の技術分野に精通する有識者をゲストとしてお招きし、シリコンバレーと中国の最新事情を交互に伺っていく形式で講座を行っています。

 今回ご紹介するのは、第5回の講座「ロボット産業:シリコンバレー」編。ゲストは、米TransLink Capital共同創業者兼マネージング・ディレクターの大谷俊哉氏です。

「4つのC」が重なり合って投資熱が高まる

大谷俊哉氏
慶應義塾大学理工学部を卒業、米スタンフォード大学経営大学院でMBA修了。三菱商事で複数の米国ベンチャーとのビジネスに取り組んだ後、光通信の米国ベンチャーキャピタル(以下、VC)部門のPresidentに就任。その後、米Everypath,Inc.の上級副社長として日本支社エブリパス・ジャパン株式会社を設立、事業運営を指揮する。2006年にVCのTransLink Capitalを立ち上げ、これまで6度のファンド組成に成功。シリコンバレーとアジア4都市(東京、ソウル、北京、台北)を拠点に事業開発支援を行う。

 日本でもRPA(Robotic Process Automation。企業の業務を自動化させるテクノロジーを指す)がにわかに脚光を集めているように、ロボティクス分野はもはや工場のオートメーション化だけでなく幅広い業界で「次の革新を生むもの」として認識され始めています。

 そこでまずは、ロボット産業の二大巨頭と言える「産業用ロボット」と「ドローン」の進化と普及について、グローバルな動向を大谷さんに伺いました。

シバタ:TransLink Capitalのポートフォリオ(投資先スタートアップ)を見ると、さまざまなテクノロジー分野に及んでいます。その中で、大谷さんはどの辺りを中心に見ておられるのですか?

大谷:主にBtoB領域で、分野としてはソフトウェア、クラウド、人工知能(以下、AI)、ロボティクス、ドローンなどが多いです。

シバタ:今回はロボット産業がテーマなので、今挙がった分野はすべて絡んできますね。ということで、まずはロボティクス分野におけるグローバルな投資トレンドから解説をお願いします。

 米CB Insightsが調べたロボット系スタートアップへの投資件数(2012年~2016年)を見ると、主要4ジャンル(エンタープライズ、コンシューマ、メディカル、その他)の中では特にエンタープライズ領域での投資が増えているようです。

大谷:2014年くらいを境に案件数が増え始めて、2016年まで年平均で150%以上の伸び率となっています。CB Insightsの同調査で資本調達額のボリュームを見ても、調達総額の半分近くを企業向けのロボティクスサービスを提供する企業が占めています。中でもドローン・重工業・小売・倉庫系サービスが多いです。

シバタ:次はそのドローンに注目したデータを見てみましょう。これまたCB Insightsの調査で、国別に見たドローン関連企業の資金調達額比較(2012年~2017年)によると、首位はアメリカで全体の65%。2位の中国は5%、3位のオーストラリアは4%ですから、アメリカが図抜けている格好です。これはやはり、軍事系でのドローン活用が背景にあるのでしょうか?

吉川:米3D Roboticsを筆頭に、一般のドローン開発も盛り上がっていますよ。ただ、この分野では中国メーカーのDJIがガーッと伸びて、一気に世界シェアを占めるようになったので、アメリカのドローン関連企業は伸び悩んでいるというのが実状です。

大谷:それと、この調査結果には時期的な影響も反映されていると思います。2012年~2017年の間には、ドローンのハイプ・サイクル(あるテクノロジー分野が成熟し、世に広まるまでの山谷を示す曲線図のこと)で大きく期待値が膨れ上がった時期がありました。だから、アメリカのドローン関連企業の資金調達額が非常に大きくなっていたわけです。

 しかし、この「期待値のバブル」というのは大抵の場合しぼんでいきます。ドローン産業も例外ではなく、大きく2つの原因でバブルが弾けました。

 一つは規制の問題です。アメリカは、テスト飛行をさせるにも、規制がけっこう厳しい。だから、この時期に資金調達したドローンの会社は、シンガポールや台湾などの海外でテストを行っていました。それが成長スピードを遅くした理由になったと見ています。

 そしてもう一つは、先ほど名前の挙がったDJIの急成長。圧倒的なシェアを占めるようになったので、もうハードウェアはDJI製でいいんじゃないかという雰囲気が漂うようになりました。その後、シリコンバレーでは制御用ソフトの開発にフォーカスし直すなど、方針転換する企業も増えています。これらの企業は、引き続きアメリカで資金調達をしているものの、一時の勢いを失っています。

シバタ:とはいえ、アメリカ国内のコンシューマー向けドローン販売は年々増えているという調査結果も出ています(下図)。僕の周りでも、ドローンを持っている人がけっこういます。

米Statista「Drones: A Tech Growth Market in the United States」(2017年5月23日)より抜粋

吉川:最近は、家電量販店大手の米Best Buyなどでも普通に販売していますからね。オモチャとしてかサービス利用かはさておき、一般に普及し始めた感があります。

シバタ:山谷があるとはいえ、ロボットやドローンを開発する企業への投資熱は依然として高いということですよね。そもそも要因は何なのでしょう?

大谷:私は「4つのC」が要因だと思っています。3~5年前くらいから、Core Technology・Commoditization・Connectivity・Commercializationの4つがうまく重なり合うタイミングが来ているというか。

 最初にCore Technology(コア・テクノロジー)の部分で、モーターやバッテリー、ライダー(短い波長のレーザーを照射することで物体までの距離を検知するセンサデバイス)など、ロボットやドローン開発に必要な部品が安く大量に提供されるようになっていきました。

 それと同時に、Commoditization(コモディタイゼーション。汎用化のこと)が進んでいきます。ROS(ロボティクス専用OS)の制御やAIなどの技術分野でオープンソース化が進んだことで、必要なソフトウェア開発を素早く効率的にできる環境が整いました。

 そして、歩調を合わせるように3つ目のConnectivity(コネクティビティ)、要するにIoTのようなビジネスモデルが一般化していきます。この流れはもう10年近く前から出ていましたが、クラウドサービスの進化によって、ロボットもドローンもインターネットと常時接続させながら大量に動かすことができるようになりました。

 最後のCommercialization(コマーシャライゼーション)は、製造側の変化についてです。アジャイルやラピッドプロトタイピングといったWebサービス・ソフトウェア開発の手法が、ハードウェア開発にも広まり出して、少量多品種を素早く製造する方法論が確立されました。その過程の中で、iPhoneに代表されるような「部品は第三者に委託して作る」モデルも広まり、積極的にスタートアップと連携するメーカーも増えていきました。

 この4つが絡み合うことで、「次のGoPro(米のウェアラブルカメラ&レコーダー企業)になる!」「次のFitbit(米のウェアラブル活動量計メーカー)になる!」というスタートアップがたくさん台頭し、彼らが競争していく中で産業全体での技術革新が急ピッチで進んでいったわけです。