IT企業が自動車メーカーを買収する日は来るのか

 講座の最後は、シバタが吉川、木村氏の2人に聞いてみたかった「自動車産業の未来」についていくつか質問をしてみました。その回答から垣間見えた、日本の自動車メーカーの命運とは?

シバタ:シリコンバレーで進んでいる次世代モビリティ開発は、既存の自動車メーカーにとってすごく脅威になっていると思うんです。

 日本では、EV開発と自動運転技術の開発が同列に語られることが多いように感じていて。本質的には全く別の話で、特に後者はシリコンバレーのほうが圧倒的に進んでいます。こうした状況の中で、もしお2人が日本の自動車メーカーの社長だったら、どんな手を打ちますか?

木村:非常に難しい質問ですね......。直接的な答えになっていないかもしれませんが、先に述べた「自動運転×シェアリング」の領域は近々必ず盛り上がると思っているので、まずはここに対応していく必要があるんじゃないかと。

 EVの普及は、不正問題から環境問題への意識が高まっているヨーロッパや、国策でEVシフトを強める中国・インドなどで本格的に始まってきています。とはいえ、これらの地域でも、EVが主流になるには相当時間がかかると予想され、移行期はハイブリッド車が主流になると見ています。このような状況の中では、「自動運転×シェアリング」領域のほうが先に主戦場として重要になるんじゃないかと。

 日本が得意とするハイブリッド車で収益を稼ぎながら、EV化のための技術も鍛える。その上で主戦場となる「自動運転×シェアリング」に投資し、収益を取りに行く。今までになかった利益率が見込める「自動運転×シェアリング」が取れないとなると、日本の自動車メーカーの国際競争力が一気に落ちてしまいます。

 ですから、まずは「クルマのサービス化」に注力した上で、EVにも長期的に対応していくという順番がベターじゃないかと考えています。

吉川:僕としては、今アグレッシブに攻めるなら自動運転の技術開発に注力するべきだと思います。欲を言えば、シェアリングサービスと自動運転の両方に注力して、EV開発は二の次にしてもいい。

 なぜかと言うと、自動運転やシェアリングサービスを前提にした自動車開発って、どこもまだできていないからです。今あるクルマって、ガソリン車にしろEVにしろ、「24時間走らせる」のは無理じゃないですか。でも、クルマのサービス化が進んでいくと、極論すれば24時間365日、短時間のエネルギーチャージで動き続けるようなクルマが求められるはずなんです。

シバタ:未来のあるべき姿から逆算して開発を進めたほうがいいということですね。

吉川:はい。そのほうが、間違いなく寿命が延びますし。多分、エンジンの作り方もタイヤの作り方も、いろんなパーツ開発の考え方が変わっていくと思うんですね。自動運転技術が発達したら、ハンドルもなくなるかもしれない。そうすると、逆にそこから、例えばUberが使う未来の自動車像をイメージしたほうが生産的じゃないですか。

 もちろん、自動車開発というのは燃費を1%改善するためだけにかなりの年月と技術革新を要する世界で、僕が話しているような構想も、中の方々からすると単なる夢物語かもしれませんが......。このくらいドラスティックな発想の転換がないと、サービス化や自動運転の世界では競争力を失ってしまう。

シバタ:今のお話を受けた質問として、ズバリUberやWaymoが自動車メーカーを買収する日は来ると思いますか?

 現在は自動車メーカーがソフトウェア会社を買収したり、連携を図ろうとしているフェーズじゃないですか? ただ、UberもWaymoも、自分たちで自動車を作っていないわけでもなくて。その延長線上にあるモビリティの未来が、仮に「ソフトウェア会社が優位な世界」になるとしたら、力関係が逆転することもあり得るのか。お2方はどう思われますか?

吉川:僕は十分にあり得ると思います。自動運転で運転するのが前提のクルマと、人間が運転する前提のクルマは、全く違う進化をしていくはずで。そうすると、これまでのクルマづくりとは違った自動車メーカーが出てきてもおかしくありません。

 特に前者は、既存の自動車メーカーではない企業が主導権を握ることになっても不思議ではありませんから、そうなった時にソフトウェア企業が自動車メーカーを買収するような動きも出てくるはずです。

 自動車は、ソフトウェアのように「明日から僕、勉強して作ります」とは絶対にならないので、ならば作れるメーカーを買うしかないという。

木村:私は時間軸の話だと思っています。短期的には、いきなり買収という形にならないだろうと見ています。

 ソフトウェア企業と自動車メーカーで、お互いが得意な部分に集中したほうが素早くイノベーションが起こせるはずですし、いろんなパートナーと組めるので拡張性があると思います。シェアリングの領域ならシェアリングの領域で、自動運転の領域なら自動運転の領域で主導権を取った上で、いろんな自動車メーカーとパートナーシップを結んだほうが、ソフトウェア企業にとっては有利なのではないかと思います。

 もっとも、中長期視点で考えれば、サービス化の部分を盤石な体制にした上で、自動車そのものの開発に本格的に乗り出そうとなるシチュエーションはあり得るわけですから、その時になって初めてメーカーを買収するという選択肢が出てくるのかなと思います。

シバタ:なるほど。お互いに違う意見で、参考になります。今日はありがとうございました!