日本企業、逆転のカギは「データなし学習」にある?

 講座の最後は、「かつての技術立国」だった日本は、AI分野における米中の躍進をどう見るべきか? という点を全員で議論しました。

石黒:本当は、日本も中国と同じことをやろうと思えばできるはずなんです。

 確かに現在の中国には潤沢な資金があって、それに比べたら日本は投資に回せるお金が少ない。人材面でも、今の中国系研究者の勢いには勝てないでしょう。でも、「国策としてAIに投資する」という点だけなら、金額の大小はさておき真似できますよね。そういう意味では、中国に学ぶことは非常に多いと言えます。

シバタ:そういう現状の中、日本のスタートアップや大企業はどう戦っていったらいいんでしょうか?

石黒:AIに関する研究や新しいアルゴリズムは、ほとんどがオープンソースとして公開されているので、それらを使う側には何の制約もありません。だから、後は「この分野にベットするか、しないのか」を意思決めするだけというか。

 また、これまでのAI関連ビジネスでは日本企業の弱みになっていた「学習用データの量と質」も、アカデミックな領域でデータのいらないディープラーニングの研究が進んでいけば、ハンデじゃなくなるかもしれません。

シバタ:今までのAIビジネスでは、個人情報を含めたユーザー情報や、行動履歴をデータとして持っていればいるほど強者になれたわけじゃないですか? だからGoogleが強い、Facebookが強い、中国は人口そのものが多いからすごいとなっていた。

 それが、「データを持たなくてもゼロからガンガンできるんだ」みたいに変わっていくのであれば、日本でもAI関連のスタートアップが躍進する可能性があるかもしれませんね。

吉川:日本の若いエンジニアたちが、柔らかい頭でAIを使いこなせば世界で戦えるぞ! みたいな展開になると面白いですよね。石黒さん、この「データなし学習」の研究って今はどんな感じなんでしょう?

石黒:この2~3年のAI研究におけるトレンドとしては、ビックデータを必要としない、あるいは少ないデータセットでもちゃんと学習できるというのが盛り上がっていますね。もっと言うと、囲碁AIで有名になった英DeepMindが開発した「AlphaZero」のように、データがゼロでも自分自身で強化学習していくようなAI研究が進んでいます。

 これは何を意味しているのかというと、究極のAI研究とは「人間の脳がどう動いているか?」を解明することなんです。人間は、生まれてからある程度物心がついて、物事を認識し始める間に、そんなに大量のデータを蓄積していないですから。

 こういった研究の成果がビジネスシーンにも応用されるまで、まだまだ時間がかかるでしょうが、今後のAIの進化をつぶさに見続けていけば、日本の企業にもこの分野での勝機が出てくるかもしれないなと。

シバタ:とても面白い未来予想ですね。今日はありがとうございました!