AI研究のど真ん中で台頭し始めた中国系研究者

 このように、中国のAI開発が急伸している理由の一つは「北米でAIの研究開発をしてきた中国系の研究者を、中国企業が逆輸入している」ことにあります。

 なぜこのような現象が起きているのか、理由を正しく理解するには、現在に至るまでのAI研究の歴史をさかのぼる必要があるでしょう。そこで石黒さんが、「第三次ブーム」と呼ばれる現在のAI研究がどんな変遷で進んできたのかを、象徴的な出来事と人材の動きから解説してくれました。

石黒:そもそもAIの研究には、1950年代後半~1960年代の第一次ブーム、1980年代~1990年代半ばの第二次ブーム、そして現在の第三次ブームという3つの時代があります。第一次~第二次ブームの時は世間の期待に実態が追いつかず、AI研究も冬の時代を迎えるというのを繰り返してきました。

 ただ、第二次ブームの終わりくらいに、カナダのトロント大学とモントリオール大学の研究者たちが地道にディープラーニングの研究開発を進めた結果、1989年に「Convolutional Neural Network」という革新的な画像認識技術が発表されます。これはAI技術者の間で「CNN」と呼ばれており、生みの親の1人であるYann LeCunが作った「LeNet」という画像認識のアルゴリズムは、現在のディープラーニングの礎になっています。

 その後の2006年には、これまたカナダのトロント大学でAI研究をしていたGeoffrey E. Hintonが、論文で「Layer-wise Pre-training」というディープラーニングの手法を発表して大きな注目を集めました。この2つのターニングポイントを作ったLeCunとHintonに、モントリオール大学でAI研究の権威となっていたYoshua Bengioを加えた3人が、現在のAI発展の礎を作ったということになっています。

 AI研究における「カナディアン・マフィア」と呼ばれる彼らは、全員カナダで生まれ育ったわけではないんですね。LeCunとBengioはフランス生まれで、Hintonはイギリス生まれ。インターナショナルなバックグラウンドがあるわけです。

シバタ:世界トップクラスのAI研究者が北米に集まっていたのが、ポイントだったというわけですか。

石黒:そうなりますね。そしてこの傾向は、その後も続きます。

 ここから「中国系のAI研究者」が台頭するまでの流れをかいつまんで説明すると、まずは2012年、ILSVRCという画像認識の性能を競うコンテストで「AlexNet」というCNNが驚異的なエラー率の低さを記録します。

 この「AlexNet」の開発に携わったのが、Geoffrey E. Hintonらトロント大学の研究者たち。彼らはその後Googleに引き抜かれ、米スタンフォード大学と一緒に「GoogLeNet」という新しいCNNの開発を手掛けます。そして、この「GoogLeNet」の研究開発をしていた2014年当時の主要メンバーをまとめたのが、以下の一覧です。

シバタ:なるほど、中国系のAI研究者が2名、入っていますね。

石黒:ええ。この時期あたりから、中国系の「カナディアン・マフィアの愛弟子たち」が大きな成果を出し始めるようになります。

 この一覧で紹介しているWei LiuやYangping Jia以外にも、2015年のILSVRCでこれまた驚異的なエラー率の低さを記録した「ResNet」の開発メンバーの中には、Kaiming He、Xiangyu Zhang、Shaoquing Ren、Jian Sunという4人の中国系研究者がいました。

 当時は4人全員がMicrosoft Researchに在籍していて、Kaimingはその後、Facebookが立ち上げた研究機関のFacebook AI Researchに移籍します。そして、XiangyuとJianは顔認証技術のプラットフォーム「Face++」を開発・運営する中国の注目企業Megvii Technologyに移籍し、Shaoquingは自動運転に関する技術開発を行う中国のMomenta.aiでR&Dディレクターをやっています。