自分の感性を信じて決断し、行動する

植木:そもそも自分はどうやりたいのか。自分の感性を信じて、すべてのバイアスを取り除いて考えてごらんと言うんだけど、それは怖いんですよね。そういうことをしてこなかった人間からすると。パイロットは、自分の感性を信じて操縦しないと、乗客の命は守れないから、僕はそういう考え方をするのが怖くないんですよ。岩出監督の本のなかに、「現在に集中せよ」とあるじゃないですか。過去や未来に囚われているから、集中力が出ないんだと。おそらく僕と同じことを言っているんだと思う。僕は「フライトのときは120%準備してこい。だけど、このシートに座ったら、準備してきたことを全部忘れろ」と言う。なぜなら、この先は自然が相手なのだから、何が起こるかわからない。何十年飛んでも、同じフライトは二度とない。だったら自分の準備したことを信じて、「さあ、いらっしゃい」という気持ちでここに座る。それをできるパイロットだけが、乗員、乗客の命を守ることができるという話をする。自分の感性だけで飛行機を飛ばしたい、というのが僕の究極の目的なんです。

岩出:いまのお話で、感性の部分だけを切り離して聞くと、誤解するでしょうね。

植木:「植木さんって理屈が嫌いだし、データも嫌いだ」と思ってしまう。冗談言うなと。俺ほど理屈やデータが好きなやつはいない。

岩出:理屈やデータという前提があり、それを越えて、もっと自由に弾けないといけないと言っているのに、後半部分だけ聞いて、意味がわからないと思ってしまう。たぶん、頭でわかりたい人はそうなっちゃいますね。

植木:でも実は、僕が伝えたいことの本質をよくわかってもらうために、あえて誤解させたいと思ってところもある。(JAL再建を指揮した京セラ名誉会長の)稲盛(和夫)さんも、よくそういう手法を使っていました。すぐに答えを言わないで、禅問答みたいにして、相手によく考えてもらうというやり方です。それに関しては、忘れられないエピソードがあります。

岩出:ぜひ、うかがいたいですね。

植木:再建当初、僕らが予算という言葉を使うと、稲盛さんに「俺は予算という言葉が嫌いだ! 計画に変えろ!」と叱られました。「はいっ!」と言って変えたのはいいけれど、予算と計画とでは何が違うのか。稲盛さんは説明してくれなかった。僕らは「言葉を変えても、意味は同じじゃないか」と思っていた。ところがその後、役員の本部長が「このコマーシャルに10億使います」と言って内容を説明したところ、稲盛さんは「おまえみたいなやつには一銭も渡さん」と言われた。さらに続けて、「おまえは自分の金でもこれに10億使えるのか。そういう覚悟が全く感じられない。帰れ!」とおっしゃった。その時、絶対に言ってはいけない言葉をその役員は言ってしまったんです。

 「いや、10億円はすでに予算としていただいているもので」──。

 その時、稲盛さんはむちゃくちゃ怒りましたね。

「だから言ったじゃないか! 計画というのはあくまで計画を立てただけで、実際に使う時、それが本当に必要かもう一回吟味しなければならない。無駄金は一切使っちゃいかん。逆に、いったん計画で決めてもそれ以上に必要だと思ったら堂々と言ってくれ。予算で決まったお金はいただけるものとおまえたちは思っていたんだろう。だから計画と言ったんだ!」。

 それだったら、最初からそう言ってよと誰もが思ったはずです(笑)。最初、意味がわからなかったけれど、その場でむちゃくちゃ怒られたことは、8年たつけれど、いまだに忘れない。体にしっかりと刻み込まれています。

岩出:予算はいただけるものではない。「既存の常識」を超えた正論ですね。