勝てる組織の要諦は「メンバーをいかにほれさせるか」

日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックル問題が世間を騒がせました。理不尽な命令に1年生が従わざるをえない古い体育会体質がクローズアップされましたが、どう感じましたか。

植木:特にスポーツの分野では、自分もそういう教育を受けてきましたし、それが当たり前だと思っていました。この問題が起きるちょっと前に、僕は岩出監督の著書『常勝集団のプリンシプル』を読んでいたので、帝京大ラグビー部とは対極の話だなと思いながら、テレビで報道を見ていました。

岩出:僕はこの件ではコメントしないことにしていて……。

植木:コメントしてくださいよ(笑)。

岩出:こういう時にしゃしゃり出て、「こうすべき」と言えるほど、いろんなことが完全にできているわけではなく、試行錯誤の部分がたくさんあります。そもそも、脱・体育会を目指したのは、その体質を問題視したというよりは、1年生に自分が所属するラグビー部のことを大好きになってもらいたかったからです。もう16年くらい前のことですが、勝てば年明けからの全国大学ラグビー選手権の出場が決まるという大事な試合で、スタンドで観戦していた1年生部員が「負ければいいのに」とつぶやいたのを、知人が偶然耳にし、私に伝えてくれました。1年生にとって4年生は早く卒業していなくなってほしい存在だったわけです。それがショックで、何とか変えないといけないと思い、脱・体育会に取り組みました。

具体的にはどんなことを?

岩出:それまで1年生がやっていた掃除や食事当番といった雑用を毎年一つずつ、上級生にお願いして、現在の形へと少しずつ変えていきました。面倒くさいことを上級生がやってくれたら、クラブ内で何らかの良いコミュニケーションが生まれるのではないかという仮説から、手探りで始めたものです。これに取り組みはじめた頃の上級生は、1年生で雑用をして、4年でも雑用をした。自分はおごられていないのにおごれと言われたようなもので少し気の毒でしたが、頼み込んでやってもらいました。

 上級生が掃除をすると、下級生の行動も変わってきます。以前は、クラブハウスのトイレで、トイレットペーパーがなくなって、芯だけがホルダーに放置されていることもよくありました。ゴミ箱にぱっと捨てて、新しいものに取り替えればいいだけなのに誰も捨てない。スリッパも乱れたまま置かれていたんですが、どんどん変わっていきました。人間というのは、こういう「小さな達成」を積み重ねることで、大きなパワーになっていく。少しずつ無理なく学生の精神的成長を図っていくと、年を追うごとに良くなっていった。以前は、指導者ひとりが戦っているだけで、学生は戦って前に進もうとする人より、逃げたいと思っている人のほうが多かったと思うんですが、その割合が完全に逆転していった。

植木:社長から会長になることを発表した記者会見で、「6年間、社長をされて、やったことはたくさんあるけれど、何をやったか、一つに絞って言ってください」という質問が来ないかと待っていたんですが、来なかった(笑)。

岩出:どんな答えを用意していたんですか?

植木:「社員を必死にほれさせた」、これだけです。それは社員のやる気を起こすためです。誰も、信用できないトップのために、一生懸命働きたくないですよね。3万3000人の社員全員をどうやってほれさせるか。これをずっとやり続けてきた6年間だった気がします。だから、僕に自信があるのは、実際に数字として残っている業績ではなく、JALの65年間の歴史の中で、「どの社長よりもオレが社員にほれられた」ことです。それが、すべてのパワーの源です。

岩出:かっこいいですよね。