「ラグビーができる」だけでは、人生で輝けない

岩出:「勝ち」を意識しすぎると、実力を出せなくなることがよくあります。欲から入って欲から離れるというか、スタート段階でモチベーションを高めようとするときは、欲があるほうがいい。マズローの欲求5段階説じゃないですけれど、承認欲求とか学生のいろんな欲をくすぐっていくのですが、試合の本番では、勝ち負けよりも「楽しむ」ことがとても大事です。「楽しむ」ということは、実力を100%出し切るベストな心理状態であり、試合のなかで本当に苦しい状況に直面しても、それを乗り越える力を発揮できます。楽しむ力は適応力の一つで、それを磨くことで予測できない状況下でも正しい決断を下せるようになると考えているんです。経営でも、数字ばかり追いかけると弊害がありますよね。

植木:社長も、会社も、業績こそが結果を表すものだと言われています。けれども、僕は社員の前で、「おれは数字を追い求めて経営したことは一度もない。目的はあくまでもJALの企業理念にあるように、社員を幸せにすることだ。ただ、幸せにしていくための手段として、数字を出せと当然言うよ」とよく話します。社長が「業績なんかどうでもいい」という会社が成り立つわけがない。ただし、「数字を出せ」とは言うけれど、それを間違って聞くなよと釘を刺します。一つの手段として言っているだけで、数字は目的ではない。数字を目的としたときに、何とも味気のない会社になってしまう。社員のみんなが求めているのはそんなものじゃないと思います。

 それは、岩出監督もおっしゃっている「楽しもうぜ」「人のためになろうぜ」と同じです。自分のためもあるけど、自分たちがこの会社で楽しく、伸び伸びと働くことで、社会や多くの人々に貢献できる。そのためにみんなで頑張ろうというのであれば、僕は社員を引っ張っていく自信がある。そこは、帝京大学ラグビー部と同じです。9連覇しているけれども、ラグビーの勝利がすべてじゃないだろうという達観した考え方に共感しました。

岩出:我々は何に向かって生きているかというと、一番上は幸せだと思います。でも、「幸せって何だ」と考えたとき、人それぞれ尺度も違う。だから、それは学生たちが自分自身で考え、探し、感じていったらいいんじゃないかと。僕は監督としてそれをサポートし、学生たちが幸せを感じられる場をもっとつくってあげたいと考えています。大学の4年間を、「人生の中で一番無責任でいられる時期」ではなく「未来のゴールにつながっている大事な準備期間」にしてあげたい。ラグビーだけしていても就職戦線は勝ち残れない。就職試験の面接では、ちゃんとしゃべれないと落ちます。それなら、そういう機会を大学時代につくってあげればいい。学生が、活力とリーダーシップにあふれる人として社会に出て活躍していくには、ラグビー以外のことで、改善すべきことが多いと感じました。自由で気楽な4年間ではなく、4年間の中で培っていかなければならないものをもっと見直して、内容をしっかり高めていくことによって、幸せにも向かっていけるんじゃないかなと。卒業後に「おまえら何ができるんだ」と言われたときに、「ラグビーができます」だけで終わらないようにしたい。