従業員30万人を世界に抱える大企業、GEは2012年から大改革を始めている。導入したのは、エリック・リース氏が提唱してソフトウェア開発手法として浸透したリーン・スタートアップだ。もっとも、安全性を重視する製造業の社員たちからは、当初大反発があった。エリック・リース氏の新刊『スタートアップ・ウェイ』から一部を抜粋して掲載する。
エリック・リース

 アントレプレナーであり、ニューヨークタイムズ紙のベストセラーリストに登場した『リーン・スタートアップ』(日経BP社)の著者でもある。『リーン・スタートアップ』は100万部以上が売れたミリオンセラーであり、30を超える言語で翻訳版が出版されている。リーン・スタートアップ手法はビジネスの分野で大きなムーブメントとなり、世界中の企業や個人が実践している。

 プレゼンテーションをする私は、講堂形式の研修室の一番低いところにいた。見上げると、階段状に並ぶテーブルに200人ほどの幹部が座っている。みな、うさんくさいものを見る目だ。その様子は、私と一緒に登壇したGE副会長(当時)のベス・コムストックの言葉がわかりやすいだろう。

 「座っていたのは、大半がエンジニアや財務畑の人間で、地域や部門の責任者です。みな、腕を組んでいました。もぞもぞと落ち着かない。『ソフトウェアの人間が知ったような口をききやがって。ソフトウェアなら1日に50回改修することもできるだろうさ。同じことがジェットエンジンでできるものならやってみろってんだ』と思っているのはあきらかでした」

 GEの試験プロジェクトの題材にシリーズXエンジンが選ばれたのは偶然ではなく、これがマルチプラットフォームの巨大エンジンで、ソフトウェアから一番遠い存在だからだ。そういうプロジェクトを新しいやり方でうまく進められるなら、全社にリーン・スタートアップを応用できるはずだし、それは、多様な事業をシンプルな方法で進められるようにしたいという会社の目標にも合致するというわけだ。

ばかばかしい「夢想計画」をなぜ作るのか?

 全体研修で話をした数時間後、私は、たくさんあるビジネススクール型教室のひとつにいた。集まっているのは、シリーズXエンジンの開発にかかわる部門のエンジニア、各事業部のCEO、そして、小さな機能横断的グループとして私の訪問をアレンジしてくれた経営幹部らである。ただし、GEの経営幹部らはあくまでオブザーバーである。

 会議の目的は、ジェフ・イメルト会長(当時)がずっと悩んできた問題のひとつ、すなわち「なぜ、シリーズXエンジンの開発に5年もかかるのか」に答えることだった。私は、5年にわたる事業計画の説明をシリーズXチームに求め、質問を次々と投げるやり方でチームが本当に知っていることと推測したことを確認していった。この製品がどう機能するのかについてわかっていることはなにか、どういうところが顧客で、彼らがこの製品を欲しがるとどう確認したのか、物理法則によって決まっているのは予定のどの部分で、GEの社内プロセスによって決まっているのはどの部分か、などだ。この会議の様子は、「自由落下しているような気分だったとみんなに言っています」という、当時、シリーズXプログラムを率いていたコリー・ネルソンの言葉がわかりやすいだろう。

 チームからは、まず、承認されているシリーズXのビジネスケースが紹介された。売上予想のグラフは右肩上がりで、まだ影も形もないエンジンが30年後まで年に何十億ドルも売れると示されていた。5年で急上昇を始め、その後はすべて順調というホッケースティック型で、いつもの事業計画だったとベス・コムストックは言う。