
最終回は、オリックスの草創期に私自身が体験した話に結び付けて、中小・ベンチャー企業の成功への鉄則をまとめてみました。
1963年、私は米国の大手リース会社で基本的なノウハウを学んでくるよう社命を受け、現地で3カ月間の研修を受けました。帰国後には日綿実業(ニチメン、現双日)からの出向社員としてオリエント・リース(現オリックス)の設立に参画しました。当時の社員は13人。まさに規模では小企業であり、ニュービジネスを手掛けるベンチャー企業でした。
宮内義彦(みやうち・よしひこ)氏。オリックス シニア・チェアマン。1960年8月日綿實業株式会社(現 双日株式会社)入社。64年4月オリエント・リース株式会社(現 オリックス株式会社)入社。70年3月取締役、80年12月代表取締役社長・グループCEO 、2000年4月代表取締役会長・グループCEO 、03年6月取締役兼代表執行役会長・グループCEO、14年6月シニア・チェアマン(現任)。著書に『私の経営論』(日経BP社)
振り返ってみると、その時の体験はいずれも「企業は人なり」を象徴する出来事ばかりです。人の振る舞いや扱いで、組織の成否が左右されることは今も変わりません。その内容をこれから具体的につづりたいと思います。
仕事と人のつながりを心から学ぶ
「組織論」や「戦略論」、あるいは「マーケティング論」。書店に行くと、企業経営について、そのような類いの書籍が多く並びます。もちろんそのような要素や項目も大切ですが、最も忘れてはいけないことがあります。それは会社を動かしているのは、人そのものということです。
つまり経営の本質は、人と人とのつながりにあるのです。シンプルなことのようですが、実際には人を動かすことが一番難しい。人はその気になって動けば100パーセントのプラスの力を発揮しますが、ネガティブになると、全てマイナスの働きになってしまいます。ものすごく振れ幅が大きいのです。
日常の仕事から大きなプロジェクトまで、人のつながりをうまく作ることができると、全員の力がプラスに働いて成功の確率は高まります。そのような考えを深く刻むようになったのは、若い頃に出会った2人の経営者の影響が大きいように思います。知らず知らずに影響を受けて、自身がリーダーになってからも、受けた教えを実践しようと努力をしました。リースの基本を私に教えてくれたU.S.リーシングの副会長だったヘンリー・B・ショーンフェルドさんと、オリックスの社長を長く務めた乾恒雄さんです。
「社員は立派な社会人」
人の大切さということで言えば、乾さんの言葉は今も心に残っています。「わが社の社員は1人1人が立派な社会人なのだから、それぞれ自覚を持って仕事をしてくれている。そういう前提で私は会社を経営しているし、みんなと接しているのだ」。
64年にオリックスを創業して間もない頃、乾さんは繰り返しそうおっしゃっていました。当時、乾さんは50代。30歳前だった私とは25歳の年齢差がありました。今になって思い返しても、本当に経営の本質を突いた一言だったと思います。
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