あるとき、その評論家の方に、私は素朴な質問をしました。「大企業の経営者は、人格的にも優れた方ばかりでしょうか」と。すると、答えは辛辣でした。「違いますよ。そうではない人も多くいます」と率直に教えてくれました。その答えは、私の思い込みを覆しました。それまで高い地位の方は素直に尊敬してきましたが、それをきっかけに「地位が全てではない」という広い考えを持つことができました。このように、本音の話を聞くことができる場のありがたさは、経営者になってからしみじみと感じました。向上心というほど大げさなことではなくても、好奇心を常に持つことが大切でしょう。

ゴルフを減らすことから始める

 中小企業の経営者の立場からすれば、「仕事に追われて、勉強する時間はない」と感じているかもしれません。常に何かに追いたてられているような気分もあるでしょう。確かに、そのような状況で勉強を続けることは、なかなかつらいことではあります。それでも中小企業の経営者には、時間を見つけてはゴルフをしている方がたくさんいます。そこを少し削るところから始めてはいかがでしょうか。勉強会やセミナーが苦手という方は、先輩の経営者の話を聞いてはいかがでしょうか。目標とする経営者から話を聞いて、視野が広がることもあるでしょうし、自身の心の持ち方や人への接し方が変わってくるかもしれません。やはり人間は学んで変わる部分が大きいと思います。

琴線に触れる、浪花節を持つ

 もっとも経営者や組織が理路整然としているだけでは、社員は堅苦しくて居心地が良くありません。トップに親しみを感じないと、結果として仕事にもやりがいを感じなくなります。社内に情緒ある雰囲気、さらに言えば人情あふれる、浪花節の世界があってもいいと思います。

 優れた経営というと、トップの事業構想力や人材活用力に注目が集まりがちですが、忘れてはならないことがあります。それは社員や取引先が人情味を持ち、血が通っていることを感じること、つまり情緒ある経営です。日本企業には特に重要です。

 ぜひ自覚してほしいことは、魅力ある人間性というものは後天的に身に付くということです。確かに先天的に社交性がある人や、外交的な人はいますが、経営者としての魅力は努力で高められます。1人の人間として、どれだけ人生について深く考えたか。そしてビジネスのことで思い悩んだか、頑張ったか。このような思考と体験を経て総合的に積み重なってきた姿は、周囲から見ても「なかなか面白い人だ」とか「チャーミングな人だ」と自然に映るのではないでしょうか。

 社員が何かアイデアを出したり、発言したり、枠を超えた動きをしようという際に、ストップをかけるような空気がある組織では、新たな付加価値を生み出すことはできないと思います。特に中小・ベンチャー企業の経営者は、組織を整える意識よりも、何かにチャレンジする起業家精神を強く保ってほしいと思います。そのような姿を見て、社員も元気になります。

新刊『私の中小企業論

オリックスを社員13人から大企業グループへとけん引した宮内義彦シニア・チェアマン。長年のビジネス経験を踏まえた中小・ベンチャー企業の経営者のための心得集です。本書は、中小企業やベンチャー企業の経営に焦点を当てて、その経営者が会社を成長させるためにどのようなことに気を配るべきか、どのような運営をすべきか、何を社員に任せるか。あるいはどう目標を設定すべきかなど、経営に欠かせない実践的な運営のあり方を28カ条にまとめています。会社も経営者も社員もそれぞれに成長するために組織運営の極意をぜひ学んでください。起業家志望の方にもお奨めです。