ここでいくつかのメリットが生まれます。ムダな眼科受診が減り、医療費を削減できます。もちろん、患者にとっても、受診に伴うコストの削減を望めるでしょう。糖尿病網膜症の疑いのある未受診者を減少させ、それによって糖尿病網膜症のための失明を減少させることができます。
さらには、眼科医不在の療養型病院や医師不在の離島でも、AIによる糖尿病網膜症の判定ができるようになります。
眼科医の視点からすれば、患者数の減少が見込める分、眼科医の「働き方」が改善されるかもしれません。診断の責任を医師が負うとすれば、健康診断や内科でのAIによる診断結果を、眼科医が隙間時間を利用して確認できるのです。さらに診療報酬を得られるシステムを検討するとなおいいでしょう。
AI診断による責任は誰が負うのか
ただし、AIによる医療診断についてはメリットばかりではありません。議論すべきこともたくさんあります。
まずは、「診断の責任」の問題です。AIによる診断ミスが起きた場合、誰が責任を負うのでしょうか?
18年5月、米Google系のウェイモが開発中の自動運転車が、アリゾナ州で走行試験中に衝突事故に巻き込まれました。これよりも前、18年3月に米ウーバーテクノロジーズの自動運転車が、路上走行試験中に歩行者を死亡させる事故を起こしています。当時、自動運転の責任問題について議論が巻き起こったことは、記憶に新しいと思います。
当然、医療についても同様の問題が起こることが想定されますから、今からでも議論すべきです。私は、現状ではAIによる診断は補助に過ぎず、最終的な責任は医師が負うべきだと考えています。
二つ目の議論は、AIによって医師の仕事が奪われてしまうのかという点です。
私は、医師の仕事がAIに完全に取って代わられるとは思いません。AIにできる仕事はAIに業務が移管され、医師は医師本来の仕事に立ち返り、患者さんに注力していくと思われます。
ハイブリッドカーがガソリンと電気で効率よく走るように、医師もAIと共走することで、医療の質を向上させることができるのではないでしょうか。
もちろん、AIに代替される部分はあるでしょう。しかし、現在のAIは、幸か不幸かシングルタスクしかできません。例えば、碁のAIは碁のみ。将棋のAIは将棋のみに特化している特化型AIなのです。
先にも述べた糖尿病網膜症診断のAIも、特化型AIと言えます。繰り返しになりますが、これは糖尿病網膜症の診断はできても、その他の症状、例えば白内障などの診断はできないのです。
遠い将来の行き着く先にあるのは、何でもできるAI、つまり「汎用型AI」でしょう。いつか人間と同様の機能を兼ね揃えたAIが開発される可能性は否定できません。これに対し、我々が準備しておくべきことは、汎用型AI時代にどのようにして自分がAIと差異化していけるか、と考えることです。
人間からしか生まれないアイデア、人間しかできない気配り、人間の持つ行動力や利便性など、今から何が自分の武器となるか。ここに意識を向けておくことが極めて大切なのではないでしょうか。
第4次産業革命は、AIによって加速度を増して進化すると言われています。この大きな時代のうねりは、ついに医療にまで押し寄せています。ここで大切なのは、我々医師は、固定観念に縛られるのではなく、新しいテクノロジーやイノベーションに敏感であり続け、患者さんにとって最良の結果を提供し続けることなのではないかと私は考えています。
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