(前回から読む)

おとうふのトップメーカー相模屋食料の社長、鳥越淳司氏は幼少期~青年期を京都で過ごし、高校卒業後、大学入学のため上京した。
好奇心に駆られ、バイトの帰り、一人で新宿の歩行者天国を訪ねることがあった。手品や歌を披露する大道芸人がいて、鳥越はぼんやり「いつかやる側にまわってみたいな」と夢想した。といっても、何か芸ができるわけでもない。「どんな芸をやりたいか」と考えても、その時はわからなかった。
大学卒業後、鳥越は雪印乳業に入社して営業担当になった。彼は相変わらず“余計なことしい”で、得意先のスーパーをまわると、必ず「なぜそうなっているのか」をじっくり考えた。
「面白いんですよ。たとえば茨城県の北のほうのスーパーって、精肉売り場の半分くらい、豚肉ばかり並んでいるんです。牛・豚・鶏で豚が半分だから割合は多い。すると、この地域では豚肉が売れる、豚肉の販促に繋がる提案なら通りやすい、と想像できます。その後は、豚肉の価格帯や1パックあたりの量などを細かく見ていく。もし高い肉が多ければ、雪印の商品も高めのものが売れる、安ければリーズナブルな商品が売れます。1パックのグラム数が多ければ、近所には大所帯が多く、逆なら単身世帯が多い」
彼は「何色のPOPだと売り上げが伸びるか」まで考え「カラーコーディネーターの資格をとろうかと思った(笑)」とも話す。雪印の営業に課せられた使命は自社商品を売ることだ。だが彼は、ただ商品を売るだけでなく、世界を動かしている法則の方に興味があったのだろう。なぜ、これは売れ、これは売れないのか? どのスーパーにどんな客が来るのか。お客さんは何を求めているのか――。
鳥越が話す。
「そうかもしれません。いつも『物事の全体を捉える』ようにしているんです」
「工員AとBの邂逅」とは
鳥越は次第に自社商品の営業だけでは飽き足らなくなってきた。
そして、妙な企画を実施することになった。
「北関東一円が地盤のスーパー『フレッセイ』を盛り上げるため、パンやアイスのメーカーと手を携えて『デザートバイキングフェア』という企画を行ったのです。お客様は乳製品でもパンでもアイスでも、店内のデザートを好きに選んで『よりどり3コいくら!』で買えるんです。楽しそうじゃないですか?」
ここで筆者が話すことをお許しいただきたい。筆者が「工員AとBの邂逅」と呼んでいるたとえ話がある。
工員AとBは同じ工場で働いているが、知り合いではない。
Aは「Bさんがこの作業を先にやってくれれば俺の作業は効率的になるのに」と思う時がある。そしてBは、この作業を先に終えることには何の抵抗もない。
だが、AとBは話し合うことがないので、効率は悪いまま……。
「全体を捉える」立場になって初めて、AとBに話し合いをさせることができるのだ。
鳥越の企画「デザートバイキングフェア」は上々の成果を得た。すると、これらの努力が良縁を生んだ。
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