茂木:問題はそこだったんですね。都と国が出費をめぐって牽制し合ったんだ。だいたい過去のオリンピックの開催都市って、開催まではいろいろな批判や問題が噴出して、「無事にできるのか?」と思わされるのですが、直前になると盛り上がってきて、開催中は完全に盛り上がりのピークになる。大成功と言われたロンドンオリンピックも、開催までは批判が大きかったパターンでしたので、東京もそうなるとは思います。

:1964年の東京オリンピックは、日本が高度経済成長期のすごく幸せだった時代で、その元気だった時代の記憶と結びついていますよね。ぼく自身もそこで丹下健三さんの代表作、代々木体育館と出会うことができて、建築家になろうと大決心したわけです。2020年の東京オリンピックが、どういう記憶になっていくのか、それは大きなことですね。子供たちにも大影響を与えるでしょう。

茂木:今はいろいろ批判も多いのですが、リオ・デ・ジャネイロで最後に聖火が東京に渡されるでしょう。そうなったら、「次は東京だ」という実感が高まりますから、気分としてはかなり盛り上がってくるのではないでしょうか。その意味で、2020年前後の時代というのは、日本が本当に世界に向けて開国し始めた時期として語られるようになるのかもしれません。

:今は大学のあり方でも国際規格が普通に言われるようになってきました。

茂木:それだって、少し前の状況から見たら、画期的なことですよね。あと、今、日本のインバウンドに、海外からの観光客が増えているじゃないですか。おかげで東京の景観は本当に変わりましたよね。

:ごく普通に外国人が歩いています。銀座の交差点もそうですが、ぼくが最も驚いたのは明治神宮ですよ。

東京・青山の隈研吾建築都市設計事務所にて

茂木:そうそう、平日の昼間なんかでも、本当に外国人の観光客が多いですよね。それも話題の中国人観光客だけでなく、ヨーロッパ人、アメリカ人、それとラテン系の人の姿も多い。

:日本人にとって神社、神宮って、七五三とかお正月とか特別な日に行く場所でしょう。普通はあまり足を踏み入れない。で、平日の明治神宮は外国人のための場所みたいになっています。

新国立で目指すは“スシ建築”

茂木:8割くらいは外国の方ですね。その変わってきた風景が、日本が世界に開けた国際的なハブ都市になり始めた時期の記憶として、人々の頭の中に残るかもしれない。その中で、隈さんの建築が日本人の自然体の美学を表すような、輝かしいものとなっていくことに期待します。たとえば「寿司」は、日本の文化を代表するものとして、すでに世界に受け入れられているでしょう。隈さんの建築にも、寿司と同じような、日本的なものの精髄が表れていると思うんですよ。新国立競技場が、その寿司的、日本的な輝きの象徴になるといいな、と個人的には強く思っています。

:いい寿司を作りたいな、という思いはありますね(笑)。寿司もいろいろありますが、マーケティング重視の回転寿司ではなく、かといって限られた人しか行けない超高級の寿司でもなく、普通の町にある寿司屋が、こんないいものを出している、という感じになるといいな。そう思っています。

茂木:それは、まさしく木造建築的ですね。

:昔は日本の町のそこかしこがそうだったのに、今はその「高いスタンダード」「偉大なる平凡」というレベルを見つけることが、すごく難しくなっているでしょう。