「地元の自然素材を使う」といえば、新国立では木がふんだんに使われているデザインになっていますね。

:やり直しコンペの要項には、「我が国の気候・風土・伝統を現代的に表現するスタジアム」という文言があります。そのため、大成建設サイドはぼくの名前を思いついたのではないかとも推察します。というのも、近年では、新潟県長岡市の市庁舎の「アオーレ長岡」(2012年)や東京都の「豊島区役所」(2015年)が、大成建設と一緒に手がけたプロジェクトで、いずれも従来の公共建築とは違って、木をたくさん使っています。

 アオーレ長岡は、地元産の越後杉をふんだんに使い、中央に「ナカドマ」と名付けた農家の土間のような温かみのある中庭空間を設けています。ナカドマには毎日のように、おじいちゃん、おばあちゃん、学校帰りの小中学生、高校生、子育て中のお母さんたちが集まって、来訪者数は年間で120万人に達していると聞いて驚きました。そのにぎわいを見て、大成建設はぼくの作風を、「今の時代に市民から愛される建築」として評価したのかもしれません。

木を使った公共建築というのは増えているのでしょうか。やり直しコンペで対抗となった「B案」も木を使用したデザインでした。

:今、建築界では、「日本的な工法」や「木を使うこと」に関して、積極的な追い風が吹いています。この十数年の間に、木造建築物の耐火技術が著しく進んだことを受けて、法令の改正や、木造の大型公共建築物への支援制度が各段に整いました。

 「木の建築」が求められているのは、日本だけではなく、世界的な傾向です。例えば現在、ぼくの事務所では「スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)」の校舎を、木造のデザインで手がけています。また、オレゴン州ポートランド「ジャパニーズガーデン」の再整備プロジェクトでは、建築材料として地元の木材を多く使う予定です。

東京・青山の隈研吾建築都市設計事務所にて

「木の建築」に人々は飢えている

やはり、木の持つ温かさや安心感に人々は飢えているのですね。もちろん、木を使えば二酸化炭素の排出量という環境面でも大きなメリットがあります。

:それに、木を使うことで経済的なメリットも得られます。今回の設計では、外壁には杉、屋根を支える構造には唐松を使っています。どちらも国産で、しかも手に入りやすい。ゆえに価格も安い。たとえば杉の羽目板は幅10.5センチで、最も安い流通材です。町工場でパネル化すれば、そのまま現場に持っていくことができます。屋根の唐松は高さ33センチのこぶりな集成材で、加工に特別な設備はいらず、どんな小さな集成材工場でも作ることができます。

 「小さな工場で普通に使われている地味な技術」というのがポイントだと思っています。というのも、現在は技術革新によって、「大型木造」という概念も建築界に広まってきました。大型木造は、木を貼り合わせてコンクリートのような巨大な集成材を作って建物を建てるやり方で、コンクリートの形態を木に置き換えただけ。そういった大型木造は、最先端の工場でしか作れないのです。

そういえば、「B案」では、長さ約19メートル、太さ1.3~1.5メートルの木製の柱72本がスタジアムを囲む、となっていましたが、これがいわゆる大型木造でしょうか。

:B案のシンボリックな柱には強い違和感を覚えました。それよりも、「小さな技術」の繰り返しで8万人収容の大きなスタジアムを作るというチャレンジのほうに、心が惹かれます。それこそがデモクラシーではないでしょうか。21世紀のデモクラシーとは、木の中にひそんでいるんです。

隈 研吾(くま・けんご)
1954年、横浜市生まれ。1979年、東京大学工学部建築学科大学院修了。米コロンビア大学客員研究員を経て、隈研吾建築都市設計事務所主宰。2009年より東京大学教授。1997年「森舞台/登米町伝統芸能伝承館」で日本建築学会賞受賞。同年「水/ガラス」でアメリカ建築家協会ベネディクタス賞受賞。2010年「根津美術館」で毎日芸術賞受賞。2011年「梼原・木橋ミュージアム」で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。著書に『負ける建築』『つなぐ建築』『建築家、走る』『僕の場所』、清野由美との共著に『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論TOKYO』などがある。(写真:鈴木愛子、以下同)

※この連載は、書籍『なぜぼくが新国立競技場をつくるのか』 の内容を再構成したものです。