新しい体験や考え方を、何から何まで肯定しよう、ということじゃありませんが、「こういうことをしている人がいるのだな」と知るだけでも、自分の感性は増えて、広がっています。なるべく自分の外にある要素に触れることって、リーダーとして、店を発展させていく、働いている人を一人前にしていくために、けっこう効くんですよ。少なくとも「それはてんやのマニュアルにない」と切り捨てず、まず「ああ、そういう悩みもあるのか」と受け止めることができるようになるのです。

 自分自身、外食産業の中では、これまでお話ししたとおり、いろいろな組織や立場に身を置き、ある時は降格もありましたけれど、「新しいところで新しい体験が出来る」と考えて、乗り切ってきたように感じます。いろいろな体験が自分でも意外なひらめきを呼んでくれました。「てんやの日」も、「従来は来店していただけなかったお客様にコンタクトする」目的で始めましたが、その大元は、冒頭にお話しした年末の「年越し天ぷら」です。

 そう、自分の仕事の中にも、けっこう未体験の、見えてないことってあるものです。店長や本部のスタッフに、“天ぷらの王様”、海老の養殖場を見てもらう海外研修も始めたんですけど、毎日見慣れている海老がこんな育てられ方をしているのか、目から鱗だ、と、大好評なんですよ。

 え、養殖なんだからよくある生け簀だろうって? ところがこれが面白い。

 てんやの海老は「粗放養殖」と言って、ベトナムのメコン川から南シナ海に流れ込む汽水域にあるマングローブの自然の地形をそのまま利用しているんです。1つの養殖場の面積が約10ヘクタールで、1ヘクタールは1万平方メートルですから約10万平方メートル。甲子園球場の総面積が3万8500平方メートル(こちら)なので、ざっと2.5倍になります。そして、ひとつだけじゃないんです。この養殖場が100個以上あります。

 海老たちはこんな広大な自然の中で、人工飼料は一切与えず、プランクトンなどを食べて育つ。自然のなかそのまんまにいる海老を、ゆるく囲っているだけなんですね。こういう、ある意味豪快な養殖方法は店長たちも見たことも考えたこともないので、とても驚き、「それで活きがいいのか!」と納得し、自分の仕事にも誇りを持つきっかけにもなっています。

コツコツ、そしてひらめきを

 目の前の仕事を、コツコツやっていくだけでもたいしたものです。

 でも、せっかくならコツコツに加えて、感性も磨いて、一流の人間のさらに上も目指しませんか。そうすれば、仕事仲間やお客様の気持ちもよく分かるようになるし、仕事の上での「ひらめき」も生まれやすくなります。そうなったらもう、あなたは超一流…かもしれません。

 と、そんなテン型人間を作っていこうと、社長に就任してから5年、研修や店長会議などを通して、一貫してやっています。

 1つの成果、かもしれないのは、当社は約220人の社員がおりますが、離職者が年間1人か2人にとどまります。ご存じの通り、フードサービスは離職率が高いのですが、この数字は1%かそれ以下で、業界では圧倒的に少ないものになります。

 今年、てんや(テンコーポレーション)には、大卒・院卒の新入社員が6人入りました。色々なメンバーがいるのですが、ずっとてんやでアルバイトしていて、有名大学の大学院を出て、てんやに来た。その彼が「一杯の天丼で世界を平和にしたい」と大真面目な顔で、意気込みを言ってのけました。

 もちろん、てんやが目指す海外展開などへの可能性を感じて来てくれたのだと思いますが、天丼で世界平和とはすばらしい(私は真面目にそう思います)。石ではなく、石垣でも城も越えて、世界につながっている姿が見えたのでしょうし、そういう目線で現場の仕事が見えるような育て方を、バイト先の店長が行ったのでしょうね。目の前ですぱっといわれて、実はけっこう、じーんときました。

 それでは皆様、どうぞよいお年をお迎えください!