福岡に異動して、前回お話しした焼き肉店など、ロイヤルホスト以外の担当になり、ロイヤルの江頭匡一ファウンダーからしごかれていたころ、当時のロイヤルの社長が「そろそろ単身赴任も3年近くになるので、用松を東京に戻して下さい」と言い出しました。修行の厳しさを見かねたのでしょうか。そうしたら江頭ファウンダーは「えっ、用松はまだまだ修行の真っ最中だ。返すなら、地区長で返す」と。

 九州に行く前は、関東の営業部長、そして業務部長でしたので、本部長の次、ロイヤルホストのナンバー2と言われていた役職でした。地区長は部長の下、課長クラスですので、感覚的には「二段階降格」ですね。早々と部長になっていたので、降格して東京に戻ると、これまでの後輩が上司になっていたりもするわけです。

 まったくめげなかったと言えばウソになるでしょう。東京に“凱旋帰国”した私を、周囲は心配して、最初は腫れ物に触るようでしたっけ。親しい先輩からは温かい言葉を掛けてもらいました(これは後でお話しします)。ありがたかったですね。

 それで、その時に学んだのは、「立場が変わると見えるモノが全く変わる」ということでした。上から見ていた見え方と、立場が変わって下から上を見たとき。これを両方体験できたことは、すごく勉強になったんです。その後、複眼的な見方をするように注意するとか、「相手の立場になる」とかに気をつけるようになりました。社内との関係もそうですし、お客様商売だとお客様の立場でモノを見るというのはまさに真逆になるのです。

 「立場が変わると見えるモノが変わる」という意味は、だいたい想像はつくかもしれません。私も理屈ではもちろん、前から知っていました。が、「上」から「下」になって体験すると、これは痛烈です。ちょっと私なりに思ったことをお話してみたいと思います。

 日経ビジネスオンラインの読者の方は、経営者や管理職の方が多いとお聞きしていますが、「上が言っていることが、下からはよく分からないようだ」と感じることが多くはないでしょうか。

 もっと端的に言えば…

 「上司が言ったことを、部下はすぐに忘れる(よって、すぐに行動してくれない)」

 ということだと思います。

部下が指示を忘れるワケ

 上が一生懸命言っているのに、下は聞いてもすぐ忘れてしまう。上司が思っていて、伝えたいと考えているほどには、部下には「これは重要な話だ、さっそく取りかからないと」というふうに思えないんです。つまり、「自分事」という気がしない。

 私も、上の立場で言っていたときは、「これだけ切迫感を伝えれば、当然分かってくれる」と思っていました。ですが、いざ自分が下の立場で聞くと意外とすぐ忘れる。これは驚きましたね。いちど上司から部下になってみないと、本当は実感できないことかもしれません。

 どうしてこうなるのか。もうちょっと踏み込んで考えてみますと、「上司の言うことがよく分からない」といっても、言葉として言っていることはもちろん理解できるんです。そういう意味では分かるんだけど、「自分の中の優先順位」と食い違ってしまうってことなんです。

 指示を聞いても「なるほどね。でも、自分の優先順位では、もっと他に急いでやることがある。この件の対応は後回しにすべきだな」と判断して、その間にも別の“優先順位の高い”仕事が押し寄せて、ずるずる順位が下がって後回しになり、最後は忘れてしまう。そういうことだと思います。どこに自分が立っているかによって、仕事の優先順位は違い、判断の仕方も変わる。「一度は上司になっていて、こんなことも分かっていなかったのか」と、ショックを受けたのを覚えています。