私は、前回お話しした中国・四国のエリアマネージャーを終えて、32歳から福岡に戻り、江頭ファウンダーの側でいろいろ教えてもらうことができました。教えて、といいますか、叱られて、怒られて、はたかれてが付いてきますが。

 でも必ずファウンダーは「えっ、僕は怒っていない。教えているんだよ」と真顔で言われました。怒り始めると、目が三角になって、言葉が止まらない、止められない。実際、あまりにたくさんの思いを伝えたい、教えたいから、声も大きくなっていくんでしょう。設計用の太いエンピツで「メン!」と頭頂部に入れられたこともあります。あれはジーンと痛かった。

 経営者と言うより、いつも「自分は職人だ」と言っていました。感覚としては、職人の棟梁のような感じです。われわれは丁稚というか、弟子というか。

 弟子としての思い出はいくつもありますが、その教えの根底にあったのは「コンセプトに基づいているか、お客様にとって食事をおいしく楽しんでいただけるための快適性はあるのか?」だったと思います。コンセプトとは、言い換えるとおいしさを提供するために必要な、合理性、機能性、論理性ということでしょう。

 福岡市でロイヤルホスト福岡タワー店(今はもうありません)を作る際に、江頭ファウンダーに呼ばれて、営業面の意見を入れた案をと言われました。基本案がオープンキッチンだったので、見た目に曲線的なイメージを入れたいと思って提案したら、いきなりぱしーんと「こんなのダメだ」とはねつけられまして。手直しして持っていっても「これもダメだ」。3回目に、さすがに「これは、デザインではなくて機能を優先しろということか」と持っていったら「これでいい」と。

7割のサイエンス、3割のカルチャー

 「お店というのは、最初は機能なんだ。目的、役割を果たせるかどうかが一番で、それができたあとでデコレーションしていく。お前の持ってきたのはデザインが先、これでは話にならない。何かものを考えるときは常に役割を考え、それを満たす機能を考える。その上でデザインを載せていく」

 江頭ファウンダーは、「フードサービスは、7割のサイエンスと3割のカルチャー」という言い方もしていました。サイエンス=合理性がある。機能的である。それが満たされたら、カルチャー、文化、デザインというデコレーションを載せる。料理についてもそう考えていたと思います。まず、サイエンス、機能の7割が、ロジックも、オペレーションも「きちんとして」いることを、目を三角にしながら求め続けていました。

 不肖の弟子の叱られた体験ばかりになりますが、二つばかりお話ししましょう。

 35~40歳まで東京でロイヤルホストの営業部長や業務部長の仕事をし、40歳を過ぎて福岡に帰って任されたのが、焼肉のお店の立て直しでした。江頭が思いを入れて作った「炭火焼肉じんじん」(今はもうありません)という店です。思い入れが強すぎたのか、豪華すぎて、地下立地という事もあり商売としてはもうちょっとだったのです。それはさておき。

「合格」はなかなかもらえない

 名物料理を作ろうということになりまして、アツアツの陶器を使ったビビンパと、持ち帰りのキムチを考えました。まずビビンパです。見た目も考えて陶器にあう木で出来た大きなスプーンを用意しました。念のために5種類ほど揃え、「この中では、デザインとコスト面からこれがいいと思っています」と、ファウンダー室でプレゼンしましたら、じぃーっとその木製のスプーンを見ています。やおらそのスプーンを手に取りまして、ふんぬと力を入れて私の目の前でボキッと折ってくれました。

 呆然としていると、「何回も何回も使うスプーンがこんなに弱くてはダメだ、もっと強いものを」と。私は、はあ~…そんなものがあるのかと一瞬脱力しましたが、必死でいろいろ探したら、竹のスプーンが見つかりました。繊維が詰まっているので人の力ではまず折れません。もう一度プレゼンしたら、ファウンダーはじろりと見て、やっぱり折ろうとするんですよ(笑)。手にとって力いっぱい、ぐぐぐぐぐ…とやりまして、でも折れない。それで「合格」と言ってもらえました。

 そうして、次のキムチです。持ち帰り用の密封性がある容器は、世の中にいっぱいあるので、ファウンダー好みの品のいい長方形のデザインで、手頃なサイズのものがすぐ見つかりました。だいたい、普通のスマホより少し大きいくらいの大きさ(厚みはもちろんもっとありますが)でしたかね。こちらは、忙しかったのでしょう、「土曜日に自宅に持ってきなさい」と言われて、持参しました。

 「これがいいと思います」と現物を出すと、まずじっと見ている。そしたら「水を入れてきなさい」と。水を入れて渡したら、江頭ファウンダーは立ち上がって、容器を手に持って腕をぶんぶん回し始めました。スプーンで痛い目に遭ったので、すぐ彼の意図に気付きましたがもう遅い。容器の蓋の角の部分から水が漏れ始めて、きれいなリビングに飛び散りました。「あああああ、やられた」。

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