海老のしっぽに衣がつかないように気を配っているか? けっこう、普通の天ぷら屋さんでも衣がついていることは多いんですよ。赤い尻尾を衣で隠さず、真っ直ぐ伸ばして、丼の真ん中に鎮座させる。そして、盛りつけに立体感を出す。まさしく言うは易くで、これは揚げる前、粉を付けるところから気をつけていないとできません。細部に神が宿ります。気がついていただけないかもしれませんけれど、でも、やるんです。

 そして、ホール(接客)。こちらでは、サイエンスをお客様に感じさせることはむしろマイナスです。お客様に近しく、非常にベタな、いわば近所付き合いみたいな感覚で、かしこまらないで、てきぱき手際よく感じよくやっていきましょうね、と考えています。ロイヤルホストですと、「地域の人に愛されるお店を作りましょう」と言っていまして、多少のリスペクトも感じていただけるくらいの気持ちで、と言っていますが、てんやの場合はもっと近く、地元の方にかわいがっていただけるようなお店を作りましょう。「てんやさん」と呼ばれるようなお店になりましょう、と。

 そして、それにはやっぱり、笑顔って大事なんですよ。

 おかげさまでてんやはここ数年好調で、お客様も増えてきてました。が、その分現場は忙しくなって、そうなると余裕が減って、挨拶、笑顔が出にくくなってきます。もともと、サイエンス、ハードが強い仕組みだからなのかもしれません。工場で忙しいときにニコニコしている人はいませんが、調理や会議の時は真顔でもいいけれど、お客様の前でそれでは、せっかくの食事が楽しくなくなるかもしれません。

パートさんたちは正しかった

 せっかくお客様が増えているのだから、ここでもう一回、全社に笑顔を、と、1月の経営方針で話しまして、3月から実際に活動に移しました。といっても、こういうのはカルチャーですから、合理性で押すのではなくて超・手作りです。オリジナルの笑顔が二つ並ぶバッジを作って、店で付けています。二人の顔になっているのは、「仲間同士、お客様と私、ひとりでなくて相手がいる」、つまり、人が二人いれば「仁(相手に対する思いやり)」だよね、という気持ちです。

 えっ、ベタすぎですか(笑)。いや、我ながらベタだとは思います。「大切なモノは目に見えない」と、サン・テグジュペリが言う通りで、だったら目に見える形に無理にするのは野暮な事なんですが、我々の仕事においては、相手を大事にするという気持ちを、分かりやすく具体的に、どう翻訳するか。それも凄く大事です。気持ちがあったとしても、顔が無表情だったりぶすっとしていたら、相手はそれを感じない。ならば、まずは笑顔になる。すると、相手も笑顔になる。まず自分から努力、笑顔になっていけば、もっと「てんやさん」と、さんを付けて呼んでいただける、という思いでやっている。

 日本人はシャイで、こういうことは自分からはなかなか言えなかったり、笑顔を出せなかったりしますよね。でも、てんやでそれを誰から言われなくてもやってくれていたのが、ホールで働いてくれていたパートさんたちなんです。今回の運動は、そうしてきた皆さんに「現場で貴方たちが行ってきたことは、正しかったのですよ」と、敬意を表すため、でもあります。