青木:そういえばインドネシアでは「海老天牛丼」があるんですが…。

用松:これ、日本でもやったら、絶対「てんや、ついに牛丼戦争に参入」とか言われるよね(笑)。

青木:私にもある程度の葛藤はあったんですが(笑)、実際、現地でもうどんチェーンや牛丼チェーンさんで、牛肉が受けている。考えてみれば、イスラムの国ですから、豚がダメで鶏しか食べない。ビーフは贅沢品として入ってきた。

用松:日本でも、すき焼きや牛鋤鍋を食べるのが「贅沢」として入ってきたわけですし、「ハンバーグと海老フライ」は、洋食の鉄板ですから、受ける理由はあるわけです。

「あるべきもの」と「変えるべきもの」

青木:この海老天牛丼のたれは、てんやの「丼たれ」が隠し味で、日本のそばつゆがベースです。控えめではありますが、てんやらしさはちゃんと残っていると思います。

 「てんやはこうあるべし」というものは持っていなければいけないけれど、現地が求める商品や、自由な発想を壊してもダメだということをこの4年で学びましたね。天ぷらの文化を教えることより、相手から学ぶことが個人的には圧倒的に多いです。

用松:海外のヒット作というと、ほかには。

青木:この「チーズ豚天丼」は、タイで大受けしています。日本でも「肉天丼」のひとつとして、人気になる可能性はあるんじゃないでしょうか。

用松:そもそも海外に出るときに考えたのはね、グローバル企業として世界で最初に成功したスイスのネスレの社是だったと思うんですけど「シンク・グローバル、アクト・ローカル」という言葉があって。てんやに置き代えると、てんやとしての「おいしい天ぷら」の背骨がしっかりしていないといけない。一方で、海外に出たらその国のマーケットのことを考えて、そこで成り立つようにしていかねばならない。背骨が7、その国のマーケットにあった商品が3くらい入れるということかな、と思っていたんだよね。食事は、日本の中でさえ歴史や文化で大きく違う。さらに国が変わればそりゃもうね。

大事なのは「開き直り」と「拡大解釈」かも?

青木:という社長の言葉を最大限拡大解釈しまして(笑)。海外にいる人間から見たら、天ぷらは我々の軸です。が、「カレーも和食だ」という開き直りも同時にありました。さっきの話じゃないですが、まず「食べてみたい和食」がないと来店してもらえませんから。

用松:いま、一番日本に近いてんやはどこ?

青木:タイは、8割方日本のてんやと同じだと思います。一方でフィリピンはかなり独自色が出ていますね。10人からの大型グループがターゲットになるので、メニューにバラエティがいるんです。実は、開発三人衆の高橋“匠”が、フィリピン市場開拓のために寿司の勉強をしてくださいまして、日本の職人さん直伝でお寿司メニューを開発してくれました。

 てんやらしいのは、中が海老天。海老ロール、天むす的な味わいです。ローカルに受けるように、揚げ玉を載せたり、マヨネーズを敷いたり。見た目も派手で綺麗で。匠は実は「ええっ…」と最初、嫌がったんですが、開き直って派手にしたら大ヒットです。ちなみにカッパ巻きは全然出ませんでした。現地のきゅうりは大きすぎるので、日本産きゅうりを使用したのですが…個人的にとても残念です。

用松:裏巻き(海苔を内側にした巻き寿司)になっているのは?

青木:はい、海苔の黒い色が嫌われるので。色の感覚は日本と本当に違いますね。メニューの地色は、日本だと白ですが、こちらでは青です。魅力を感じる色が、青なんですね。

用松:本当に、日本だけで考えていた常識は全然通用しないね。

青木:平均年齢も収入も違うので、国に応じた、てんやらしさをどう作るかですよね。タイの1号店は、日本のてんやそのままであえてやってみたんですが、すこしずつ踏み込んで、だんだんと現地へのピントの合わせ方が上手になってきた、と思っています。

用松:いいじゃないですか。てんやの創業の志は「ハレの食べ物である天ぷらを日常に」だし、お堅いことをかちかちに運営するのは、うちはあまり得意じゃないからね。我々が得意なのは、みんなが気軽に来られる、来たくなるお店にすることで。

 さすがに、現地のヒットメニューをそのまま国内に持ってくるのは無理だけれど、市場の求めることと「てんや」らしさを両立させる工夫は、国内が海外に学ぶところも多いと思います。引き続き「拡大解釈」で、頑張ってください。

青木:はい、そうさせていただきます(笑)。