てんやは、20席から30席の比較的小さな店がほとんどです。店長を含めて5人~7人のスタッフで営業しています。調理では、「揚げ場」「盛り場」「洗い場」、接客の方は「注文・配膳」と「レジ」、だいたい5つのセクションがありまして、クルーはそのどれかに配属され、スキルを上げていきます。

 スキル向上を考えるなら、同じセクションをずっと担当して習熟してもらうほうがいいのです。しかし、例えば調理セクションが忙しい時に、手が空いた接客のスタッフが手伝えたらどうでしょう。クルーの間に、「ありがとう、助かったよ」「いえいえ、どういたしまして」と、よい空気が流れ出すのではないでしょうか。

同僚を助けることで絆も深まる

 働く目的の、すごく大きな部分を「お金を稼ぐ」ことが占めているのは当然です。でもそれだけではなく、成長したい、目の前の仲間の役に立ちたい、という気持ちもある。

 そう思っていても「ああ、盛り場がいま大変だ、手伝えたらいいのに」という時に、経験が無ければそれができない。だったら、誰の仕事でも手伝えるようになれば、と考えて、「フルセクションクルー」の育成を2012年から打ち出しました。

 ビジネスパーソンの方ならお分かりの通り、これはいわば多能工化で、人手不足の対応策であり、生産性向上のキーとなる施策です。しかし、職場の一人ひとりが助け合ってチームになっていく時にも、大きな力になるんです。

 相手の仕事が分かると、相手の立場で「いま何をして欲しいか」「何をやったらまずいか」が判断できるので、店内がスムーズに流れ出します。例えば料理が出来上がっても接客の人が運べない時にキッチンメンバーがテーブルまで持ってゆく。当り前のことが当たり前に出来ることで、仲間の絆が深まりお客様にも喜んでいただける。

 早い人だと、半年くらい経てば自分のセクションの仕事を覚えて、フルセクションへの道を進み始めます。店長達も、フルセクションクルーの育成を重点取り組みとして真剣に取り組んでいてくれています(部下の人にぜひやってほしいことは、何度も繰り返し言うのがコツです。私もそうでしたが、言われなくなると「やらなくていいんだ」と判断されます)。いま、全クルーのだいたい半数くらいがフルセクションをこなせるようになりました。学生のアルバイトさんは卒業などで2年くらいで辞めていきますので、なかなか100%は難しいのですが、これからも続けていきたいですね。

「困っている人を助ける」「人の役に立つ」

 考えてみると、留学生のクルーたちも「もっと成長して一人前になりたい。自分たちも何か手伝って、店の仲間を助けたい」と思っていたのです。そこに店長が必要なスキルを与えてくれて、一気にモチベーションに火が付いた。助けられるほうも喜んで彼らを仲間として迎えた。「困っている人を助ける」というのは、人間誰しもが持つ、大きなモチベーションなのではないか、と思います。

 日本のサービス産業は生産性の向上が大きな課題となっています。色々な角度からの取り組みが必要だと思いますが、てんやは一人ひとりの成長がチームの成長につながり、お客様の満足と生産性の向上に繋げていくことに取り組んでいます。人の成長こそがてんやの成長に繋がると心から信じているからです。

 おっと、めしばなを忘れるところでした! 今年の新作「早春天丼」。まもなく訪れる春を予感させる味わいの白魚(しらうお。「しろうお」とは別の魚です)。貝柱もいれてコクを増したかき揚げで、繊細な風味と食感を楽しんでください。鮮度を保つべく活〆した穴子も従来より大き目のものを使用し、ふっくら感と脂ののりを満喫していただけると思います。早春というなら、山菜は? はい、分かっております。こちらは雪解けを待って、間もなくお届けできると思います。どうぞお楽しみに!