民間企業である日本の病院は利益を最大化しようとする

単価が安く薄利多売になっている状況を変えるには、どのような改革をすればいいのでしょうか。

津川:大切なのは、既存の仕組みの中でどうにか解決しようという発想から抜け出すことです。

 大きな医療改革は、トップダウンで政治的に実施せざるを得ないと思います。ただし、拙速にやってはいけません。医療改革は、ハイリスクです。米国のオバマケアの時も、英国のトニー・ブレアの医療改革の時もそうでしたが、何が起きるかわからないですから。

薄利多売をから抜け出すために、医療サービスの単価を上げることはできますか。

津川:今の状況では、単価を上げることはできません。病院が儲かるだけで、その結果として日本の財政破綻を早めてしまうでしょう。単価を上げても、外来や検査の量を減らすというようなインセンティブは全く無いからです。日本の病院は民間企業ですので、利益を最大化するように制度設計されています。

では、どうしたらよいのでしょうか。

津川:今の診療報酬制度は、いわゆる「出来高払い」という仕組みです。これは、「量に対する支払い」とも言われるのですが、提供するサービスの量が増えるほど収入が増えるというものです。しかし、これはほとんどの国で、需要よりも供給が多くなってしまうという状況を招き、不十分な制度設計であると言われています。

 そのため、多くの国で「包括支払い」の方式を取り入れています。例えば、外来では「人頭支払い」と呼ばれる制度があります。患者1人当たりいくら、かかりつけ医の患者1人当たり1年間いくら、もしくは、風邪や糖尿病などで病院に来たら1回いくらといったように、医療機関への支払額を固定額にする仕組みです。そうすると、病院側としては、1人当たりのサービスの提供回数を減らした方が儲かるようになり、無駄なサービスが減るというわけです。

 ただ、この仕組みの問題点は、患者さんにとって必要なサービスと、必要でないサービスの両方を減らしてしまうことです。本来であれば、必要でないサービスだけを減らしたいわけですよね。腰が痛いという患者さんに湿布を出すとか、風邪を引いた患者さんに抗生剤を出すとか。その一方で、患者さんがひどい腹痛で来院したらお金がかかってもきちんとCTをオーダーして欲しい。患者さんにとってメリットのある医療まで控えられたら困ります。

 そこで多くの国では「ペイ・フォー・パフォーマンス」、つまり、業績に対する支払いを組み合わせているのです。ちゃんとガイドラインに沿った診療しているか、術後の30日死亡率は全国平均より低いかなどの実績を見て、悪かったら経済的なペナルティーを与えて、良かったらボーナスを与えるといったことをしています。

 この包括支払いにペイ・フォー・パフォーマンスを組み合わせるというのが、欧米では標準的になりつつあるのですが、日本でも「包括支払い」が部分的に導入されているとはいえ、まだ不十分だと思います。もちろん、この仕組みが全て正しいと証明されているわけではありません。特にペイ・フォー・パフォーマンスのエビデンスは弱く、日本でも実証研究が行われるべきだと思います。しかし、いずれにしても近い将来、何らかの形でより包括的な支払いを導入する必要があると考えます。

 日本で取り入れられている包括支払いは「DPC」という仕組みなのですが、これは米国の「DRG」という仕組みを日本版にアレンジしたものです。米国では、「入院1回当たりいくら」なのですが、日本では「入院1日当たりいくら」で、だんだん報酬が減っていくというものです。医療費を抑制するインセンティブは、米国のDRGほどは強く無いと考えられます。おそらく、そこには何らかの政治的な妥協があったと思われます。