「『昭和の人生すごろく』のコンプリート率は、大幅に下がっている」「2度目の見逃し三振はもう許されない」──。

 経済産業省の若手官僚が日本社会の課題についてまとめた文書が話題を呼んでいる。今年5月、審議会の一資料として公表された「不安な個人、立ちすくむ国家」と題したペーパーだ。役所の文書らしくない表現や内容が並ぶ資料が公表されると、じわじわとインターネット上で話題になった。

 「わかりやすい」「危機感が伝わる」など肯定的な意見の一方で「具体的な政策に落とし込んだ結論がない」「抽象的過ぎる」などの批判もある。報告書作成に参加した若手官僚に批判をぶつけた。

ペーパーの概要

 全65ページ。経産相の諮問機関で産業構造の改善や民間の経済活力の向上などに関する調査・審議を行う「産業構造審議会」の5月18日の会合に提出された。経産省の20、30代の若手で作るプロジェクトチーム(PT)がまとめた。

 文書は大きく(1)液状化する社会と不安な個人(2)政府は個人の人生の選択を支えられているか?(3)我々はどうすればいいか?の3章で構成。日本社会の現状と課題をPTの視点でストーリー化した。

一資料がネット上で話題に

話題になりましたね。

上田圭一郎氏(33歳、大臣官房秘書課課長補佐):資料そのものが出回るということ自体、なかなかないので驚いています。役所らしくない表現と、いろいろなテーマを並べているので、見た人に何かしらひっかかるものがあったのかなと。組織として意思決定したわけではなく、役所の我々の世代とネットを見ている人たちが思ったより近いことを考えていて、それがかみ合ったのかなと思っています。

どういう経緯で作られたペーパーなのですか。

上田:昨年8月ごろ、「中長期の政策課題を考えたい若手」の募集が省内であり、応募しました。所属部署で仕事をしていると、「来年どうしよう」などと短期的になってしまう。それでは世の中がよくなっているかどうかわからないという問題意識がありました。

高木聡氏(32歳、大臣官房総務課課長補佐):入省したときから中長期の課題には興味がありました。ここまで広がりをもって議論することはこれまでできず、ある種、省を超えてこの国がどうしていくべきか、というのをゼロベースで議論してみたかった。

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