「3秒間に13文字」と数値化されたことで目標が明確に

 初台リハビリテーション病院に入院して1カ月半ほど経過したところで、言語療法士が交代し、より経験豊富なスタッフが担当してくれることになった。彼女のリハビリの最大の特徴は私の社会復帰を前提に、リハビリを実践に近づけてくれたことである。

 ある時、私がテレビに出演してきたことを知った彼女は、脳梗塞以前の私がどんな話し方をしていたのか知りたいと言うので、対談番組のDVDを渡した。すると彼女はDVDを丹念に見て、驚くべき指摘をしたのである。

 「財部さんは3秒間に17文字も話していました。客観的に見て多すぎます。もう少しゆっくり、3秒間に13文字のペースが良いのではないでしょうか」

 話す速度を秒単位で計算するというのは新鮮だった。

 たしかに私は周囲から「もっとゆっくり話した方がいい」との助言をもらうこともしばしばあった。話に熱が入ってくると、ついつい早口になり、聴き手は「聞きづらい」と感じていたからだ。どう修正すべきか。「もっとゆっくり」というのは抽象的すぎて、目標になりにくい。単なる気の持ちようで終わってしまう。ところが「3秒間に13文字」と数値化されたことで、目指すべき話す速度をいつでもチェックし、コントロールすることできるようになった。厳密に13文字にこだわっているわけではないが、社会復帰をしたいまでも、時々、iPhoneのストップウォッチで速さのチェックをしている。早口が気になる読者の方は一度試してみることをお勧めする。

担当の言語療法士は、脳梗塞になる前の筆者の話し方が早口であったことを指摘し、ゆっくり「3秒間に13文字のペース」で話すことを助言してくれた。※ 写真はイメージです(写真:hxdbzxy/123RF)

自分の考えを言葉にする時には、脳と口が一体化する不思議

 さて担当者が代わり音読の方法も変わった。

 古典の名作を読むのは終わり、日経新聞やニューズウィークの記事をiPadで読むようになった。より実践的になった。ひっかかる言葉をチェック、反復練習するのは名作の音読の時と一緒だが、大きな変化はその後だった。今度は読んだ記事を「要約」することが求められた。

 これは非常に興味深い経験だった。脳の使い方によって言葉をコントロールする力が全く変わるのである。名作の音読は自分の意思とは関係のない文章を一方的に読むという作業であり、脳と口の動きがバラバラというか、いまひとつ一体感に欠けるのだ。

 ところが読んだ文章を要約する作業は全く違った。自分の頭で考えたことをそのまま言葉にした時、脳と口の動きが一体化する感覚を得られた。他人が書いた文章を音読するよりも、自分の頭で「要約」したものを言葉にする方が、はるかに口の回りが滑らかになる。

 自分の思いや考えを「伝えたい」という本能的な欲求を刺激してこそ、初めて口や舌は脳に連動することができるのだ。

次回に続く)