装具をつけるということは失った機能を補うことであり、補い続ければ、新たな司令塔を創り出すことが永遠にできなくなるのではないか、という不安があったからだ。

 ではこの原稿を読んでいただいているあなた自身が、あるいはご家族が脳梗塞になった場合、「装具」についてどのように考えたら良いのだろうか。私はひとりの患者としてではなく、ジャーナリストの目線で見た時、初台リハビリテーション病院の「装具」の使い方について疑問を感じていた。何の躊躇もなく、ほぼ自動的に患者の足には装具がつけられていく。リハビリルームの片隅には、装具業者が常駐し、毎日、誰かが新しい装具を作らされているというのが私の印象だった。私はリハビリが進んで装具を外した人を見たこともないし、そういう話を聞いたこともない。

 装具は歩行の困難さをサポートしてくれるが、サポートするということは、脳に新たな司令塔を作る気づきをなくしてしまうことである。

「退院後に歩行能力を落とさない、その選択肢の一つが装具」

 実態はどうなっているのか。初台リハビリテーション病院の関係者に取材した。

 「私見ですが、初台では9割以上の方が装具を使用しているのではないかと思います」

 装具作成数に関する統計はまとまっていないようだが、関係者によると大多数の患者は入院中に2本の装具を作ることが多いという。入院直後にまず「治療用」としてふくらはぎ全体を覆うような長い装具(長下肢装具)を作る。そしてリハビリが進んだところで、退院後の生活を念頭に2本目の短い装具を作るのである。

 「他病院と作製数が違うとすれば、1本目の長下肢装具を作るところでしょうか。長下肢装具を作る方は中度~重度の麻痺の方が多い。こういった方々は往々にして高次脳機能障害もあり、細かいアプローチが難しかったりします。まずは『立つ』という環境を作る目的もあり作製します。良い姿勢をとること自体が、身体機能的にも、高次脳機能的にも、治療をする上で大切なことなんです」

 高次脳機能障害については、以前、この連載でも取り上げたが(2017年5月15日配信記事『石原元知事「脳梗塞で平仮名すら忘れた」の衝撃』参照)、記憶や知覚などの脳の機能そのものに障害が残ってしまうケースである。

 「装具を作らないケースは当院では少ないと思います。麻痺や高次脳機能障害がどれぐらいか、また急性期での回復具合と、当院に来てからの経過を見て、さらに退院後の生活スタイルがどうなりそうか、どれぐらい自己管理ができそうか等々を評価、予測しながら検討します。ピークが退院直前で退院後すぐに歩行能力が落ちていく事態は極力避けなければいけません。私たちの関わりがなくなっても管理していける環境をどう作るか。その選択肢の一つが装具だったりします」